子ども学習支援グループ 須賀の寺子屋
「そうか~、そういうことか~」
学習支援グループ須賀の寺子屋で学んでいる中学生が思わず出した言葉です。
彼女の鉛筆を持つ手に勢いと力強さがみえました。数学の問題を理解できた喜びが、次の問題集の問題を解いてみよう、解いてみたいという気持ちになったようです。
子ども学習支援グループ須賀の寺子屋(以下 須賀の寺子屋)は、学習の楽しさを知り、学力の向上を図り、将来犯罪や非行に陥ることのない青少年の育成を行うことを目的に、2016年12月に設立されました。
代表の大野文(おおのふみ、札場町在住、59歳)さんは、保護司や更生保護女性会、ガールスカウト、保育士などの資格や経験をもち、優しい力を沢山持っている人です。大野さんは、自身の様々な経験から「子どもたちの学習は、家庭環境によりできないこともあり、学ぶことができるようになると子どもたちの学校生活は、より過ごしやすくなると実感してきた。」と話します。大野さんの思いを同じ保護司や地域で繋がっている大人たちが共感・共有して集まり、団体が設立されました。(タウンニュース平塚 2017/01/19)
幅広い年代が寺子屋を支える
須賀の寺子屋には学習支援員23名、見守り支援員7名が登録しています。定年退職をした方や、元教員や元塾講師、平塚地区BBS会の大学生など年代も幅広く、活動しています。月2回の学習支援の対象は、小学生と中学生。学習支援を受けている小学生は4人、中学生が22人います。須賀の寺子屋では、支援を受けたい小学生と中学生の参加者募集のチラシを作成しています。小学生には、平塚市立港小学校区内の9割の家庭が加入している子ども会の力を借りて、回覧。中学生には、平塚市立太洋中学校が生徒全員にチラシを配布しています。
小学生は、ひらつか市民活動センターを会場に、16:30~17:30の間の45分間を学習時間として各自で設定し、学習支援員と一対一で宿題などに取り組みます。飽きておしゃべりをしてしまったりすると、見守り支援員が声を掛け、「頑張っているねえ」「自分で決めたのだからやろう」「できているじゃない」と、再び学ぶ姿勢に戻れるように、やさしく、時にはしっかりとした口調で子どもたちを諭します。
ある小学生は、数十分しか続かなかった勉強が、自分で決めた45分間、学習できるようになりました。保護者と連れだって会場に来ていた小学生は、今では自分の足で訪れます。子どもたちの学ぶ姿勢に変化がみられるようになってきました。
中学生は、”共催”として取り組む平塚市立太洋中学校の体育館2階会議室を会場に、苦手な2科目を19:00~20:30の時間を45分間で区切り、学習支援員一人に対し2、3人程の生徒が学習支援を受けます。会場スペースの利用は同校が快諾し、同校PTAの承認を得て金銭面の支援もしています。そして、須賀の寺子屋の様子は、平塚市立太洋中学校 栗木雄剛校長先生が発行している「太洋中よもやま話」の中で記事として紹介され、各家庭に配られます。この「太洋中よもやま話」は、平塚市のホームページにある『ちいき情報局』にも掲載され、地域にも広く知らせています。
須賀の寺子屋の活動が始まって10ヶ月が過ぎ、学習の機会を得ている中学生の姿には、学ぼう、学びたいという意欲が見て取れます。「自分で考えてもわからないことが聞ける」という中学生の話から、須賀の寺子屋のみなさんと信頼関係が結ばれていることがわかりました。学習支援員も学びを伝える大切な役割を自覚し、事前に予習をしてから学習に備えています。
寺子屋では協力者を募っています
須賀の寺子屋は、地域からもあたたかく見守られ、いろいろな面で地域の協力があります。ある地域の方のご寄付により、プリンターを購入することができました。また、太洋中学校 栗木校長先生は、授業で使っているプリントの原本を寄贈。卒業した生徒は、学習教材のドリルなどを寄付しました。
今年度は公益信託ひらつか市民活動ファンド入門コースの助成をうけ、教科書やネームホルダー、プリンターのインク代・事務用品などの購入に充てています。
須賀の寺子屋が今、必要なものは、学習支援員の人手です。中学生に対する学習支援員の人数不足から中学生の定員を増やすことができない状況です。中学生には、教科ごとにきめ細やかな対応がしたいという学習支援員の気持ちがあります。学習支援員の登録数が増えて、学習支援員と中学生が一対一で学べるよう、活動の目的を共有する人たちを募っています。
下の写真は、ちょうど取材に伺った日のこと。NPO法人東海大学地域環境ネットワークの学生たちが、寺子屋の子どもたちを対象に理科実験の出前授業(プランクトンの解剖)を行っているところでした。学校の授業ではなかなか個別に対応することは難しいですが、学生が丁寧に顕微鏡の使い方や解剖の方法を指導してくれることで、理科の楽しさを知ることができます。このようなワークは今後も定期的に開催していきたいとのことでした。
熱心に顕微鏡を覗く中学生。いつもより真剣な眼差しに、支援者も驚きの一幕でした。
「授業についていけるようになった」「やる気がでてきた」「中学の学習においつけるようになった」など参加した中学生の言葉が、須賀の寺子屋のみなさんの活動の活力です。学習が終わる20:30に中学生を送り出した後、学習支援員の60代の男性は、私に言いました。
「声がガラガラですよ、小学生と中学生の両方です。」
その男性に疲れた様子はあるものの、どこかにこやかで満足そうな表情です。須賀の寺子屋に携わる人たちには、小学生と中学生の役に立てているという実感がやりがいと喜びをもたらす場であると私は感じました。
須賀の寺子屋は、環境により勉強ができない子どもたちに、学びのきっかけをつくり、学ぶことが日々の生活の楽しいにつながるよう子どもたちを応援し、子どもたちの歩む未来がより希望に満ちた未来に繋がるよう、願って活動しています。
私は、須賀の寺子屋の活動は、子どもたちの背中に優しく添える大きな手のような存在だと思いました。この言葉を大野さんに伝えると「いつまでもそうあるように頑張らないとね~」と返してくれました。
中学校の体育館前では数台の自転車が、勉強を終えて戻ってくる中学生をじっと待っていました。
ライター 大和田マイ子