「昔も今、竹細工の翁達がありけり。平塚市青少年会館に集まりし、竹を細工しつつよろずのものをつくりけり。」
湘南版「竹取物語」の冒頭の一節です。
国際竹とんぼ協会湘南・平塚支部を取材しました。
文字通り竹とんぼをこよなく愛する人たちの集まりです。
みなさんも子供のころ竹を削って作って飛ばして遊んだ方が多いことと思います。
竹とんぼの魅力にはまる人たちは
- 竹とんぼの競技会で記録をめざす人たち
- 竹とんぼの美しさにひかれより芸術的な竹とんぼを創ってみたい人たち
- 子どもたちに面白さを広めたい人たち
がいるそうです。
競技会は
- より高く飛ばす————————-高度部門
- より長い時間空中を飛んでいる——-滞空部門
- より遠くへ飛ばす———————-飛距離部門
にわけられるそうです。
羽根の角度、バランス、軸の直線性など精巧なものは、手で回しても樂に30mは高くあがります。
竹とんぼだけでなくこんなものまで創っています。
滑り台を竹の動物がピョコタン、ピョコタンと降りてきます。
竹の節から伸びている枝のところを断面にして顔にみたてるという着眼点に驚きました。
こんなのもありました。
ドラえもんもビックリ!竹コプターです。棒の中央の蛇腹をこすると2つのプロペラがまわります。
何でだろう~、何でだろう~。な・な・な・何でだろう♪ (テツ&トモ)。不思議でしょう。
国際竹とんぼ協会湘南・平塚支部の末松 孝一さんにお話を伺いました。
湘南・平塚支部の設立
1999年6月 設立されました。そのきっかけなどを伺いました。
末松さんの話
もともとモノつくりには興味があり、釣りの浮きやグライダーの工作などをやっていました。1990年にたまたま出張先の本屋で「竹とんぼからの発想」という本に出会い「国際竹とんぼ協会」という会があり高さ、滞空、飛距離と目的別に竹とんぼ作りをしていることに衝撃をうけ、引き付けられました。造船関係の仕事をしていたので、スクリュープロペラの理屈は知っていましたが「竹とんぼ」となると理屈通りにはいかないことを思い知らされました。以来いろいろな本を読み漁り我流で竹とんぼの制作に夢中になりました。
1998年に平塚総合公園で竹とんぼを飛ばしている方を見かけ、竹トンボを飛ばしている姿に魅了されお知り合いになりました。国際竹とんぼ協会が開催するイベントを紹介され多くの諸先輩と交流させていただきました。そして地元の湘南・平塚で活動しようとの機運が高まり1999年6月に設立することができました。

2009年当時の湘南・平塚支部のみなさん(後列左から4人目が末松さん)
竹の奥深さ、古くからの竹との関わり
縄文時代の遺跡からも竹製品が出土されているくらい古くから人間と関わりがあります。
竹は不思議な霊力をもつ植物。木でもなく、草でもなく。固くもあり、また柔らかくしなる。カオス的植物からいろいろな祭祀に使われてきました。不思議な力をもつものと言われる所以です。
「松・竹・梅」とおめでたいときに使われる言葉にも竹がはいっています。
驚異的な成長力が、人々の成長や家、企業の発展を重ね合わせるのです。
手作りのこだわり
羽根の角度、バランスなどを調整したり、計ったりする冶具も手作りするそうです。
竹とんぼを回す機械も自分たちで作ります。知恵と工夫によるモノ作りは、日本のモノ作りの原点を観させてもらった気がします。
バランスを図る冶具も手作りで工夫しています。
夢中人は少年のような感じがしました
取材のために、平塚青少年会館の美術室に入っていったら、おじさんたちが夢中で作業中でした。
若い人がいない。でもそこにいたのは少年のような好奇心と探求心に満ち溢れた少年たちでした。竹とんぼの話をしだすと止まらない。何時間でも話し続ける勢いがあります。
竹とんぼ協会の会報の名前が「竹とんぼ通信・夢中人(むちゅうじん)」といいます。
バランスについて熱く語る少年たち
まさに言い得て妙。でもその名前には深い意味を感じました。
夢中になれるものがあることの幸せ
夢中になることの楽しさ
夢中になる仲間がいることの喜び
夢中になれる趣味があることが定年退職後スムーズに有り余る時間を意義あるものにする重要なアイテムです。
定年退職者難民にならないために
末松さんに取材中、たびたび、「ソフトランディング」というキーワードがでてきました。
取材している私もそうですが、仕事一筋で会社員生活を送った団塊の世代といわれる人たちですと定年を迎え仕事から解放されると、「さて今日は何をしたらいいのだろう」「何処へいけばいいのだろう」…リズムが崩れ、自分の立ち位置がわからなくなって、あげく体調をおかしくする人達をみかけます。
末松さんが竹とんぼと出会ったのが定年の約10年前です。そして支部設立の時期に定年を迎えました。
竹とんぼという夢中になれるものがあったからスムーズに定年後も生きがいを持って過ごせることができました。これが末松さんのいうソフトランディングです。
末松さんが務めていた会社では、「教育部」という部署があり、定年後のソフトランディングの事例として「竹とんぼ」を取り上げて、都内の職員を集めて「竹とんぼ教室」を開催したそうです。末松さんや湘南・平塚支部の方たちの協力も得て行われました。それは定年退職してからスムーズにソフトランディングしてもらいたいための会社側の「趣味を持ちなさい」という愛情のあらわれだったように感じます。こんな粋な会社があれば定年退職者難民は減るだろうと思います。
末松さんは公益社団法人「日本産業退職者協会」にも「竹とんぼ同好会」の講師をされています。退職者協会という名の通り、教養と教育を蓄積された高齢者の遊び場で
・教養(今日用がある) ・教育(今日行く所がある)
ソフトランディングを実践されている方の集まりです。
子どものワクワク・サイクルを回そう
いきなり小刀で竹を削るようなことは親御さんが許さない時代。
先ずは竹とんぼを飛ばして見せて、すごさや感動を与えまする。
お祭りや教室などで飛ばして見せるとみんな驚くそうです。
竹とんぼ教室で子供たちに作ってもらう竹とんぼの準備。
ある程度のところまで創りこみます。
先ず大人が見本をみせると子どもたちが感動して興味を持ちます。興味を持った子供には、次に何でだろう?と解説をします。その解説の手引書も手作りで細かく解説されています。
そして次に自分で創ってみるように指導します。
今は、ある程度竹を削って仕上げのみをやらせるそうです。でも自分で少しは作ったという達成感を感じてもらえると思います。飛ばしてみて思うように飛ばないと、何でだろう?とまた考えます。
このワクワク・サイクルをまわしてあげたいですね。
人を楽しくさせるにはまず、自分が楽しまないと
平塚市青少年会館のロビーのショーケースには竹とんぼや竹細工製品が陳列されています。是非ご覧ください。
秋の浅間まつりや地域のお祭りにもテントを出したり、竹とんぼ教室を開いて、面白さ、作る楽しさなどを広げる活動をしています。会員も募集しています。興味のある方は連絡してください。
最後に末松さんの言葉
人を楽しませるには、まず、自分が楽しまないと。
楽しむ断面はちがっていても支部のまとまりには自負するものがある。それは面々の「他を思いやる気持ち」のベクトルが一致していたから。今後も楽しむという伝統を次世代に継承していきたい。
湘南版「竹取物語」。竹藪で竹を割ったら、光り輝いてあらわれたのはまさに「夢中になれる宝物」だったのですよ。今を楽しむ輝きに満ち溢れていました。有り余る時間を楽しむにも、健康があってのこと是非元気に活躍してください。ありがとうございました。
湘南NPOサポートセンター
ライター:清水 浩三