はじめに

近年、日本各地で自然災害が頻発し、防災への関心がますます高まっている。特に地域レベルでの備えが重要視される中、平塚市では市民主体の防災活動が積極的に行われている。今回は、その中心的な存在である「ひらつか防災まちづくりの会」の代表、山田美智子さんに平塚の防災活動についてお話を伺い、地域と市民がどのように防災に向き合っているのかを探りたい。

 

平塚の防災活動と市民の取り組み

平塚における防災活動の中核となるのが「ひらつか防災まちづくりの会」だ。

この会は、市民活動センターができた2003年に正式に団体登録された。元々、阪神・淡路大震災後に「地域の防災力を高めるにはどうすればいいか」という議論が高まり、それが市民レベルの活動へと発展したという。

 

防災訓練の企画・運営、専門家を招いた講演会、防災ニュースの発行などを行っている。特に、自治会や福祉団体との連携にも力を入れているという。

 

山田さん 「災害時に一番困るのは、高齢者や障がいのある方、子どもたちです。だから、市社会福祉協議会や地域福祉協議会と協力し、要支援者向けの避難計画を立てる取り組みもしています。単に『避難所に行けばいい』ではなく、『どうやって避難するのか』『誰が手助けするのか』まで考えることが重要なんです。」

防災活動に役立てるため、会が作成された冊子「あなたの家は大丈夫?」

出典:ひらつか防災まちづくりの会(https://hiratsukabousai.jimdofree.com)

 

最近の具体的な活動事例

最近では、2023年8月30日に発生した台風10号による大雨災害を受けて、被害が大きかった旭南地区で防災講座を開いた。

 

山田さん 「河内川が氾濫(溢水)して大規模な浸水被害が出たのですが、住民の多くが『今回の被害は依然と比べてひどい』と驚いていました。この地域では同じような水害が繰り返し起こっていました。歴史を知り、なぜ繰り返し発生するのか対策や対策の効果を考えることが大事だと感じました。」

 

講座では、専門家の話を聞くだけでなく、実際に危険箇所を歩いて確認する「まち歩き」も実施。これにより、住民がより実感を持って防災を考えるきっかけになったという。

 

山田さん 「地域の人たちが昔どのような災害が起きたかも考えながら、まち歩きを通して地形などを知り、避難経路の改善を考えることも大切です。関東大震災のときには平塚の馬入の橋が崩壊して交通が寸断された記録があります。現在でもその時の橋の台を馬入川の中に見ることができ災害の歴史から学ぶことができます。」

 

「まち歩き」の様子

出典:ひらつか防災まちづくりの会(https://hiratsukabousai.jimdofree.com)

 

 

自然災害伝承碑の巡回と歴史の学び

防災意識を高めるため、山田さんたちは国土地理院の呼びかけで「自然災害伝承碑」の巡回活動も行っている。

 

山田さん 「平塚には関東大震災の被害を伝える石碑がいくつかあります。でも、住民の中にはその存在を知らない人も多いんです。そこで、地域住民と一緒に巡ることで、防災の歴史を学ぶ機会を作っています」

 

特に須賀地区(漁港近く)や長楽寺周辺には津波の被害を伝える碑があり、地元の人々と一緒に過去の災害を振り返ることができたという。

 

山田さん 「昔の人たちは、石碑を建てることで『同じ悲劇を繰り返さないように』という思いを残してくれました。それを私たちが忘れずに受け継いでいくことが大切だと思っています」

 

 

ラジオ・テレビでの防災啓発活動

山田さんの防災活動は幅広く、湘南地域で防災に関する情報を発信する番組 「地震! その時あなたは」 の制作に携わっている。これは湘南ケーブルネットワーク(SCN)とFM湘南ナパサで放送されており、市民の防災意識向上を目的としている。この番組の企画・運営に携わる山田さんに、どのような思いで番組を制作しているのか、詳しくお話を伺った。

 

山田さん 「この番組は、阪神・淡路大震災の翌年にスタートしました。FM湘南ナパサの開局が1994年で、その翌年にあの震災が起こり、多くの犠牲者が出ました。当時、平塚でも『もし大規模災害が発生したらどうすればいいのか』と考える人が増えたんです。でも、地域の防災情報を発信する場がほとんどなかった。それなら、自分たちで作ろうということでナパサクラブとSCNクラブの市民活動として始まったのがこの番組でした。」

 

番組は毎回、自治体の防災担当者や自治会の方、専門家や防災の市民活動を行う人々をゲストに迎え、具体的な防災対策や過去の災害の教訓について話し合う形式をとっている。最近では、若い世代の関心を高めるため、大学生がキャスターを務めることもあるという。

 

山田さん 「学生が関わることで、若い人たちが防災を『自分ごと』として考えやすくなるんです。世代を超えて防災の意識が広がるのは嬉しいですね」

さらに、テレビとラジオの両方で同じ内容を放送することで、より多くの市民に情報が届くよう工夫している。

 

山田さん 「テレビのほうが映像で説明できる利点がありますが、ラジオは移動中でも聞けるので、より広範囲の人に伝わるんです。例えば、通勤途中に防災情報を聞いて、家族と話し合うきっかけになれば、それだけで大きな意味があります」

 

 

防災だけでなく、暮らしやすいまちづくりへ

山田さんは、防災活動だけでなく「平塚花のまちづくりの会」の代表として、地域の環境美化にも力を入れている。

 

山田さん 「平塚駅南口の噴水広場が雑草だらけで荒れていたんですが、そこを整備して市民が憩える場所にしました。大学生と協力してバラを植え、イベントを開催したりして、地域の人が集まれる空間になりました」

 

この活動が評価され、「みんなのまちづくり事例年間大賞」を受賞。防災とは直接関係ないが、地域の暮らしやすさを向上させることもまちづくりの一環だと考えている。

 

山田さん 「防災も、環境美化も、結局は『みんなが住みやすいまちを作る』という点で共通しています。これからも、地域の人と一緒に考えながら活動を続けていきたいですね」

 

平塚駅南口の噴水広場の様子

出典:湘南ひらつかナビ (https://www.hiratsuka-kankou.com/spot/hunsuihiroba.html)

 

活動において苦労すること

山田さん 「苦労することはすごくあります。自分たちのことだけを考えられると、何も進まなくなってしまうんです。なので、もう少し視野を大きくして地域のためにどうすべきかという考え方をしてもらいたいんです。」

 

ひらつか市民活動センターには、山田さんのような志しを同じくする人々が集まるため、どう連携して街をより良くしていけるかについて話し合えるという。

また、そのような苦労がある中でのボランティア活動に対する山田さんの考えも伺った。

 

山田さん 「ボランティア活動は志しを高く持った人がいなければ進みません。なので私は無償でボランティア活動を行う必要も無いと思っています。儲けることを目的とするのではなく、ある程度事業展開をするなどして、報酬があっても良いのではないかと考えます。」

 

市民活動やボランティア活動の重要性

山田さん 「最近、隣近所に誰が住んでいるかを知らずに生活している人が増えています。しかしそれでは有事の際に助け合うことができません。市民活動やボランティア活動が盛んになることで住民の繋がりも強くなり、災害時などに連携が取れるようになります。そのような助け合い精神の豊かな街をつくりたいんです。」

 

また、山田さんは個人的に他地域で同じような活動をする人との繋がりを持っており、平塚だけでなく他地域を知ることも活動する上で大切なことだという。

 

山田さん 「平塚だけだと視野は広がらないですが、他地域との交流により、平塚以外の情報を得ることで、とても良い刺激になります。」

 

おわりに

平塚市の防災活動は、単なる災害対策にとどまらず、地域の絆を深め、より暮らしやすいまちづくりへとつながっている。防災の意識を高め、過去の教訓を次世代へと伝えることが、未来の安心・安全な社会につながるのではないだろうか。これからも地域と市民が協力し、防災を「自分ごと」として取り組んでいくことが求められる。

山田さんは「防災は特別なことではなく、日々の暮らしの延長にある」と強調する。災害時に助け合える地域のつながりを築くことが、安心して暮らせるまちづくりにもつながる。

山田さんの言葉には、平塚の未来をより良くしていきたいという強い思いが込められていた。

 

作成日:令和7(2025)年3月12日

作成者:東海大学建築都市学部土木工学科三年 稲葉健太、山本万葉

 

令和7(2025)年3月13日 記

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