平塚市内で魅力ある場所を取材していますが、ネットでけっこう評判になっている陶芸教室をみつけましたので、最初に体験教室に参加しその後取材をさせていただきました。
平塚市田村にある陶磁器工房「器楽(きらく)」さんです。
「器楽」のホームページはこちらから→http://www.scn-net.ne.jp/~k-kiraku/
伴 健太郎さんのプロフイール
1977年 中原生生まれ、大原小、中原中、二宮高、東海大学工学部土木学科卒。
卒業後に就職し、傍ら趣味で陶芸教室に通う。7年の会社員生活を経て、退職。
佐賀県の陶芸の職業訓練校に入学して半年間学ぶ。その後も3年間、佐賀で修行。
平塚に戻り、工房を開く。
勤務しながら陶芸教室に通った理由
伴さん:「社会人3年目くらいから陶芸教室に通い始めました。あまり深い意味はなく、もともとモノを作るのが好きだったので、自分が作るモノで人が使って喜んでもらえるものは何かを考えたときに陶芸が浮かんだのがきっかけです。」
伴さんの陶芸作品作りのマインドは?
伴さん:「『陶器で何かを表現してみよう』というより、既存のモノをコピーして『自分も同じものを作ってみよう。それにどのくらい肉薄できるか』というイメージで作品作りをしていました。
そして作ったモノを知人に贈ると喜んでくれるし、それでやれる内容を広げていったという感じです。」
佐賀に修行に行ったのは?
伴さん:「佐賀県に陶芸の職業訓練もできる訓練校があって、試験を受けて入りました。自分で作ったもので人が喜んでくれるのを感じて、それを自分の仕事として商売してみたらそこそこやれるのではないかと思いました。
そのために工房を開くにも技術を身につけなくてはいけないので訓練校に入ったというのが理由です。
さらに佐賀県は陶芸が地場産業なので夜は工業高校の聴講生として2年間学び、卒業してからも佐賀県で窯業(ようぎょう)関係の仕事をしながら陶芸の技術やサービスなどを学びました。3年間陶芸のことばかりしてました。」
私は職人
伴さん:「私は芸術家ではないので、自分の作品を表現しようという気持ちもないんですよ。お客様に『こういう表現をしてみなさい』と言うこともないので、お客様からみればやり易いのではないかと思います。お客様が『こういうのを作りたいのだけれど』と言われれば『こういうように作れば出来ますよ』と言ってあげられるので。
芸術家のように、いかに自分の作品を表現して、世の中に認めてもらって生活していくという、私はアーティストの道に進むつもりはなくて、あくまでもビジネスとして作品を提供したいというのが一番ですね。
陶芸作家になってしまうと接客は難しくなりストレスになってしまうし、お客様もストレスを感じてしまうと思うんですよ。だから私は作家には興味がなくて陶芸教室とか体験工房が親しみやすいのではないかと思います。私は職人ですね。飾っておく美術品ではなく、使ってもらう商品を作る職人です。」
陶磁器工房「器楽」を開業
伴さん:「佐賀での修行を終えて平塚に戻り、ふさわしい物件を探し、現在の田村に家を借りました。工房用に内装などは自分で施工しました。楽しかったですね。作るのが好きなんですよ。2011年にオープンしました。
材料の粘土は佐賀から取り寄せています。磁器も取り扱えるのも強みです。」
陶磁器工房「器楽」とういう工房の名前について
伴さん:「陶磁器工房 器楽(きらく)は佐賀県で修行しているときに思いつきました。
陶芸のイメージは敷居が高く、それなりの気構えを持って取り組むイメージがありましたので、ご利用頂く方にもっと“気楽”に楽しんで貰えたらと思い工房の名前を考えました。
工房のキャッチコピーは『気楽に・気軽に・気長に・・・』です。
小さなお子様からご年配の方まで幅広い世代の方に、親しみやすい陶芸を提供出来ればと考えています。ただ、工房が忙しくなると、私自身が“気楽”に出来ていないので、そこは反省と改善を行わないといけませんね・・・。」
陶芸の魅力は「無からの創造」
伴さん:「形が無いものから形をつくるのが最大の魅力です。モノ作りは形あるものを加工していくイメージですが、陶芸は粘土で形にはなってないものから、自分の思い通りに形に作っていって、それが自分で使えて、かつ、誰かに使ってもらえるというのが陶芸の最大の魅力ではないかと思っています。
また、釉薬(ゆうやく)を塗って『焼く』という工程があるのですが、それがなかなか思うようにいかなくて、焼きあがってみないとわからないところがあります。逆にそれが面白い魅力かもしれません。」
工房を開いた初期のこと
伴さん:「2年くらいは、昼は工房を開いていましたがお客様がついてないので、生活のために夜間アルバイトしてました。3年目くらいから徐々にお客様がついてくれてやっていけるようになりました。
体験教室や、子ども対象の体験教室を低料金で開催したり、出張教室などでお客様がつくようになりました。
また、SNSの活用も効果があったように思います。
平塚市では、西側に同業者がいるのですが、東側には工房がなかったので商売するなら東側の方が良いと思って田村の地を選びました。平塚駅からは少し遠いですが、寒川、東名高速などからのアクセスが便利です。」
苦しかったこと、嬉しかったこと
伴さん:「サービス業なので接客の難しさですね。私は理系出身なので接客業は向いてないのかなと思ってるんですよ。お子さんの相手も難しいです。大人で、上手くいかなくて失敗するのが許せないみたいな方の対応も大変です。
『モノ作りは失敗してナンボの世界』だと思っています。失敗するから次はもっと良いものを作ってやろう、作ってみたいという気持ちになってほしいなと思います。
結果にフォーカスしてしまうと良いものは作れませんね。製作過程にフォーカスしてもらいたいですね。
製作過程のここが楽しいとか、あそこは苦手とかを理解して、出来たときに喜んでくれると、一緒に作り上げているという幸せを感じます。」
伴さん:「子どもは素直だし、自由だし、私は子どもが作るときにはなるべく手を出さないようにしているんですよ。
失敗したものもそのままにしてあげるんですが子どもは平気ですね。大人の方が気にしますね。
『ほとんど先生が作った』といわれるのが一番いやなんですよ。」
平塚という街について
伴さん:「『我々の街は、こういう街なんだ』という固定された概念にとらわれていない、こだわりが少なく壁がない。なんでも受け入れていく市民感覚なのかなと感じています。
ベルマーレ、ららぽーと、七夕など多様に受け入れ、縛りがない、風通しがよい地域だなと思っています。
飛びぬけたものはないけど、いろいろなものがある。それが良い所のような気がします。
何でもあるし困らないけど、ブランド志向もないという感じもしますが。」
あきんど塾との出会い
あきんど塾facebookはこちらから→https://www.facebook.com/hiratsuka.akindo/
伴さん:「工房を始めて2年目くらいから平塚市内でお店の規模は違いますが商売している人たちと、何でも相談できて気さくに話ができる仲間と巡り会えたのが良かったです。
商売を一人で初めて、右も左もわからないし知り合いもいないというのは不利かなと思って、ネットで調べて同じくらいの規模で自分たちの好きな商売をやっている“あきんど塾”に巡り会ったんです。
また、あきんど塾を通して4年前から神奈川大学の経営学部の学生との地域プロジェクト授業で、お店の課題を解決したり、お店のPRシートを作成したりする活動をしていますが、若い世代と関わり合いを持てるというのがすごくやりがいにもなるし、誇りにも思えるし満足感がありますね。あきんど塾に入って、仕事以外の活動の幅をひろげていけているというのがプラスになっています。
毎月集まって、お店の強化とか学生の役に立つことなどをやれているのは面白いですし、楽しいですね。」
平塚をこうしたらいいのにと思うことは?
伴さん:「私は商売人ですからその感覚でみると、やはり駅前の中心商店街を活性化しないといけないなと思います。今は、中心商店街に『買い物に行ってみたい』という気にならないし。昔から商売をしていたお店が閉まって、そこを他の方にテナントで貸してチェーン店が入るのが増えてくると商店街としての一体感は薄れていくし、もったいないなと思います。『まとまって何かをやればいいのにな』と思います。強力なリーダーが必要な気がしますね。『買い物に行きやすい』『あの店に行ってみたい』というお店が5・6店広がってきたら賑やかになってくるのではないかと思います。」
今後の夢
伴さん:「賃貸なので、いずれは自分の店を持ってみんなに来てもらえるお店にして『あそこの工房に通っているんだ』という、誇りに思ってもらえるようなお店にしたいですね。
また、学生と関わっていますが継続していきたいし、自分の経験を伝えて『サラリーマンでない人生も楽しいものだよ』ということを感じ取ってもらえるような活動をしていきたいです。
与えられた仕事をいかにレベルを上げていくかに主眼をおきがちですが、自分で商売をやってみると『お客様が喜ぶにはどうしたらいいか』『どうしたら人生が楽しいか』とか視野が広がったので、『こんな生き方もあるよ』というのを感じ取ってもらえたらいいなと思います。
私の商売をやってみたいという学生がいたら、『一緒にやってみようか』という展開になったら最高ですね。
『商材が陶芸だけどチャレンジしてみなよ。失敗してもいいから自分の思い通りにやってごらん』なんていってあげられるのが夢ですね。」
ライターの独り言
私も、ろくろ体験教室で茶碗を作ってみました。何とか形にしようと指先で粘土を触っている時は息を止めるくらい集中していました。夢中で無心になれて楽しかったです。生まれて初めての経験でしたので何も考えなしで作りましたので、お点前の茶椀にしては小さいし、ぐい吞みにしては大きいと中途半端な出来ですが現在家で毎日ご飯茶碗として使っています。高台に自分の名前があると世界に一つという感じがしていいものですね。
是非、みなさんも工房を訪ねて体験してみてください。
「モノ作りは失敗してなんぼの世界」という言葉に共感します。
本日はありがとうございました。
文責:清水浩三