「農福連携」とは、高齢化などで人出不足に悩む農家さんと、働いても収入が少なく、なかなか自立への道が見えない障がい者が、お互いの強みを出し合って Win-Win の関係を築いていこうというプロジェクトです。2016年頃からこの考え方が広がり始め、農水省の後押しもあって今や全国的な広がりを見せています。今年度から平塚市においても農福連携のプロジェクトが動き始めたものの、新型コロナの感染拡大で今年度の前半は、私たちも思うように活動ができませんでした。
しかし、9月からは JA 湘南様の職員の方への研修をはじめ、このプロジェクトの目的でもある農福連携コーディネーターを育成するための研修会も開催されることになり、11月には農福連携を実践されている農家さんへのスタディツアーも開催されます。
そこで、このスタディツアーに先立って農福連携の先進事例の現場の視察と下見を兼ねて、8月20日(木)に横須賀市にある「津久井浜観光農園」様と「ブロ雅農園」様を訪問してお話を伺うことができました。
~~~~~~~
当日はお天気も良く、夏本番の猛暑ではありましたが、入念な熱中症対策を取りながら、神奈川県で障がい者を数多く雇用して農作業の受託やお菓子、ノベルティの製造・販売を手がける「パーソルサンクス株式会社 横須賀・みうら岬工房」の岩﨑マネージャーほか社員の方に、現地を案内していただきました。
津久井浜観光農園を訪問
最初に訪問したのは京急津久井浜駅近く、武山の麓にある「津久井浜観光農園」様を、農園主の小林様に案内していただきました。ここは古くからみかん狩りやいも掘りで有名な観光地でしたが、今でも季節ごとにいちご狩り、みかん狩り、いも掘りと季節ごとの味覚を家族で楽しめるところです。当日は、ご自宅前の畑でいちごのランナー切りという作業を見学させていただきました。
ランナーとは、いちごの苗株から伸びる茎のことで、この茎につく新芽を根付かせて株を増やしていくのですが、隣り合ったポットの間の茎を切り離すことで、いちご狩りを行うハウス内での栽培が可能になります。こういった作業をパーソルサンクスが受託しています。畑では農家の方と一緒に、パーソルサンクスの指導スタッフ・メンバーが一緒になって楽しそうに作業されていました。ここでも猛暑の中、30分に1回程度の休憩を挟んで作業が進められていきます。
半年後、1年後、さらにその先の成長に繫げる
メンバーの中には、この作業を何度も経験している人もいて、小林様も「毎年々々、スタッフのスキルが高くなっていくので効率も良くなった」とおっしゃっていました。またスタッフも、その作業をすることで半年後に見られるいちごの成長を目の当たりにできることで、モチベーションが高まるのだといいます。ランナー切りの作業をしているすぐ隣はみかん狩り園になっていて、スタッフは季節になると摘果(間引き)作業も請け負っているとのことでした。
みかんは摘果することで大きく育った実をつけることができますし、腹ばいにならないと取れないような低い位置や、背が届かないような実は、みかん狩りのお客様にも喜ばれないことをスタッフは学んでいきます。それが来年、再来年への成長に繋がっていくのだと、楽しそうに語っていた小林様でした。
ブロ雅農園を訪問
そして次に向かうのは三浦半島を横断して相模湾側・長井にあるブロ雅農園様です。横須賀市の長井は以前には小さは漁村と畑が点在する地区でしたが、近年は「ソレイユの丘」という、広大なアミューズメントパークができて人気の観光地になっています。今回お伺いしたブロ雅農園様は、長井地区に18箇所もの農地を所有されている農家さんですが、当初は先代であるお父様、代表の鈴木様と副代表の奥様の3人だけで経営されていた農園でした。
しかし、あまりにも広大な農地に手が回らなくなり、パーソルサンクスのほか2社と契約を結んで農作業を委託されています。ここでは年間で 100 種類以上の作物が栽培され、ソレイユの丘にある直売所や近隣の直売所はもとより、スーパーの紀伊国屋、横浜高島屋の他にも横浜元町・霧笛楼や横須賀・三浦市内を始め葉山町内の飲食店にも提供されているとのことでした。
あせらず根気よく丁寧に教えることで、一人前になる
ここで、元平塚農業高校初声分校で教鞭を取られていた代表の鈴木様がおっしゃっていたのは、「障がい者だからあれはできないとか、その作業は無理だと決めつけるのはおかしい」というお話でした。「学校を出てサラリーマンとして就職した学生だって、最初からなんでもできるわけではないですよね。新人には新人向けの教育が必要なのは、障がいのあるなしには関係のない話です」と。
時には隣の畑で作業されている人手不足の農家の方が、「いつも来ている若い人たちは誰なの?」聞きに来ることがあるそうです。「障がい者の人に手伝ってもらってるんです。」と言うと、「障がい者ですか…」と渋い顔をされる方もいらっしゃいますが、こちらが和気あいあいと手っ取り早く作業を終えてしまうので、驚かれているとのことでした。今ではあちこちの農家の方が様子を見にやって来ているそうです。
ブロ雅農園様を後にして、車で5分ほどの産直市場「すかなごっそ」に立ち寄ると、地元野菜を求めて横浜・横須賀の近隣の方達が、たくさん買い物に来ていました。農業は、過疎化や少子高齢化が大きな問題となっていますが、まだまだやり方次第で大きな可能性を秘めていると感じた1日でした。
(文責:鳥巣)