平塚市では市民のボランティアによる外出支援の取り組みを推進しようと、現在3つの地域でその活動が始まっています。そこで、令和2年9月23日(水)、関係地域の皆さんと一緒に、既に秦野市で展開されている「とちくぼ買い物クラブ」の皆さんを訪問し、立ち上げ時・立ち上げ後の工夫や実情、今後の抱負などについて伺ってきました。
「とちくぼ買い物クラブ」は、秦野市栃窪地区で平成31年4月から始まっている地域の外出支援の取組みで、毎週水曜日に栃窪会館(秦野市栃窪)から地区内の駐車場を経由して、ヤオコー秦野店(秦野市平沢423番地の1)までの送迎を行っています。
毎週水曜日の午前10時に出発して、あらかじめ前日までに予約した利用者を乗せて、車で10分ほどのスーパー、ヤオコー秦野店まで送迎しています。現地での買い物時間はおおよそ1時間程度です。
「とちくぼ買い物クラブ」の概要
秦野市栃窪地区では、住民の高齢化や近隣の商店の廃業などによっていわゆる「買い物難民」が増加し、大きな問題になっていました。そこで秦野市は地区の自治会、近隣の社会福祉法人と三者による「栃窪地区買物支援事業」として協定書を締結して外出支援事業を開始することになりました。
事業の総括は社会福祉法人が行い、車両の提供や車両保険の負担を行なっています。車両の運転や利用者との連絡調整は自治会が行い、秦野市がそれらをバックアップする形で連絡調整の取りまとめや運転ボランティアの育成とボランティア活動の支援、介護予防支援事業として運営費の助成を行っています。
■運営状況
送迎車両(8人乗り乗用車)は、地区内にある社会福祉法人浄泉会から無償で貸与されており、ガソリン代・車の保険料その他車両に関わる費用は浄泉会が負担しています。その他に車両以外の事故等に対応するために運転者、介助者、利用者にNPO活動保険を「とちくぼ買い物クラブ」としてボランティア保険に加入しています。
ドライバーは秦野市高齢介護課の認定ドライバー研修を修了した人で、社会福祉法人浄泉会にボランティアとして登録されています。謝礼や報酬はありません。
利用者は前もって栃窪自治会に利用者登録をした人が対象で、利用する場合は前日の午後7時までに自治会長または副会長まで電話で予約をすることになっています。
利用当日は、午前10時までに栃窪会館または所定の駐車場(下段)に集合して送迎車を待つことになっています。スーパーに着いたら1時間程度買い物をして、時間が余ればスーパー内のイートインスペースでお茶を飲みながら出発時間になるまで待つこともできます。集合時間までに駐車場に戻り、車に乗って出発時と同じ乗り場で下車します。また重い荷物でもって帰るのが不安な場合は、都度ボランティアに相談することを勧めています。
■視察内容
平塚市内からレンタカーで秦野市栃窪地区の集合場所に向かい、秦野市高齢福祉課の職員から「とちくぼ買い物クラブ」の概要説明をいただき、送迎車の到着を待って利用者様の搭乗風景と介助者のサポートの様子を見学させていただきました。
今回の視察の参加者は、須賀新田地区で外出支援を実施されている「須賀新田シニアクラブ」から2名、目下、旭南地区で地域ボランティアによる送迎事業を準備されている旭南地区協議体から2名、そして2年後に神奈川大学の転出が決まって路線バスが大幅に減便されることが予想されている土屋地区から2名、計6名に参加していただきました。また、当法人から4名、平塚市福祉総務課から2名が参加、総勢12名でお伺いしました。
送迎車は栃窪地区の上段(地区は山の斜面に2か所に分かれています)にある栃窪会館を10:00に出発し、下段にある2番目の集合場所に向かいます。上段と下段の間は細い林道で結ばれた急な坂道で、高齢者が歩いて移動するにはかなり厳しい道のりです。
5分ほどで下段の集合場所である駐車場に到着すると、近所に暮らす利用者の方が三々五々と集まってきました。集合時間には事前に予約されていた利用者が全員揃い、目的地であるヤオコー秦野店に向けて出発しました。
その後、(送迎車の出発地点)に移動して栃窪自治会会長と秦野市高齢介護課職員から詳細な説明がありました。
■事前の質問事項
視察に先立って事前に問い合わせをした質問内容について、自治会と秦野市からの回答がありました。
Q1 運営は会費等で行っているのでしょうか?
A 会費制ではありません。栃窪自治会員なら利用は無料です。
Q2 会費以外に利用者から寄付を募ったりはされていますか?
A 自治会の費用と秦野市からの補助金で運営しており、寄付は募りません。
Q3 車両はどこから手配されていますか?
A 「社会福祉法人やまばと学園」の送迎車両を無償で貸与してもらっています。
車両に関する経費や保険料は山鳩学園の負担で、運転者、介助者、利用者に関する保険は自治会負担です。
Q4 現在登録されている運転者や介助者はなん人くらいいらっしゃるのでしょうか?またその方に謝礼等は出されているのでしょうか?
A 運転者と介助者兼務で6名のボランティア(2名のペア)で、3ヶ月ごとに事前調整をして運転者と介助者を決めて本人に連絡しています。ボランティアのため謝礼はありません。
Q5 利用者の平均人数は何人くらいでしょうか?
A 最大6名が利用可能ですが、平均4名くらいです。
Q6 利用の手順はどのように定めていますか?
A 前日の午後7時までに会長または副会長に電話連絡をすることになっています。利用者が6名を超える場合には2往復しています。
とのことでした。
■新たな移動支援への発展
スーパーへの買い物支援については「買い物クラブ」の送迎車で送り迎えを実施していますが、通院やその他の外出に伴う移動については、買い物クラブではカバーできていません。そこでもう一つの手段として注目されてきたのが近隣の社会福祉法人が運行している秦野駅との送迎車を利用させてもらう方法でした。これは社会福祉法人「輝星会」から提案されたもので、現状、法人が運営している施設の「特別養護老人ホーム湖」および「老人保健施設みかん」と小田急線秦野駅間を送迎するために、1時間に1本運行している無料バスに便乗させてもらう方法です。
ここでも自治会と秦野市、社会福祉法人が協定を結び、利用者は自治会が発行する利用者証を持って、決められた停留所に行ってやってきたバスに乗るというものです。
このバスは元々、施設の利用者やその家族、施設職員の送迎のために運行されていたもので、その枠組みを変更することなく自治会員が自由に利用できるように取り決められたものです。利用希望者は栃窪自治会に利用登録をして利用者証の発行を受け、栃窪地区内の停留所(2カ所)で乗車する際に運転手の提示することになっています。
もちろん既存の定期バスなので、希望する病院などの外出先に行ってもらうことはできませんが、秦野駅からは電車もあり各方面へのバスの起点にもなっているため、利用者は特に不便を感じていないとのことでした。
■今後の課題
今回の視察の中で、参加者からは保険等の負担や無償ボランティアのあり方などについてたくさんの質問が出ましたが、秦野市の助成制度や社会福祉法人の協力もあって順調に運営されているとのことでした。ただ今後のさらなる高齢化も予想されることから、ボランティアドライバーの高齢化によって継続的な確保が問題になってくる可能性についても言及がありました。
秦野市では継続的な安全運転講習を実施することで、今のところ市内全域でもかなり多くのボランティアドライバーを確保できているとのことで、平塚市においても助成金の拡充や安全運転者講習などの継続的な取組みが必要だろうとの結論になりました。
記 事業担当(鳥巣)