長唄三味線「湘南ながうたの会」の宮代(みやだい)まゆみさんを取材させていただきました。

湘南ながうたの会の 宮代まゆみさん

 

先ずは「長唄」というものを理解してもらうために

日本の伝統芸能に歌舞伎があります。歌舞伎は江戸時代より前の歴史物語や江戸時代の庶民の風俗を役者のセリフ回しと演技で表現する芸術でありますが、そこには情景に合った音楽がついています。それが三味線で奏でる日本伝統音楽です。長唄もその一つで歌舞伎舞踊として発展してきました。

歌舞伎から説明するとわかりにくいので、映画音楽に例えて解説しましょう。

西部劇が好きで、ジョン・ウエインの騎兵隊や幌馬車などの映画には夢中になりました。インディアンに襲われて必死に逃げる幌馬車とそれを追いかけるインディアン。それを守るべく立ち向かう騎兵隊の壮絶な撃ち合い。

馬もろとも転倒するインディアン。その場面で流れる戦いの場面を盛り上げる音楽。

戦い終わって、しばしの休息をとる騎兵隊の面々。多くの仲間を失った悲しみと生き残った安堵感と複雑な心境で仲間と飲む一杯のコーヒー。そこに流れるなんとも物悲しい旋律のメロディー。

西部劇でなくても、ラブストーリーの映画でも聞かれまます。駅で愛する人との別れのシーンなどで流れるメロディーにはいまでも名曲が多いです。

歌舞伎も同じ。その場面の情景を盛り上げるために音楽が使われました。勧進帳の弁慶の大立ち回りでは大勢の長唄三味線の息の揃った響きは場面の重厚さを醸し出します。

歌舞伎にもラブストーリー物はあって、好きあった男女の道行や、心中もので「この世で添い遂げられなければあの世で」と、なんと橋のたもとで手を取り合って…なんてところでは、三味線の音を押さえた静かな音色が情景を盛り上げるように思えます。

映画音楽にもマーチ、バラード、ブルースなどその場面場面で効果的に音楽が使われるのと同様に、歌舞伎でも情景により三味線音楽が効果的に使われます。長唄もその一つであります。

 

宮代さんが長唄に興味を持ったきっかけ

宮代さん「母親が謡曲を嗜んでいた影響で、日本の音の環境に育ったことも影響していると思います。

母親は謡いを習ったのち、鼓の稽古も始めるようになりました。その鼓の稽古をしているのを見ていて、とても拍子をとるのが難しい様子で。うまく間が取れないと良い音も出なくて苦労しているのを傍で見ていて、奥の深さを感じていました。

興味はありましたが、母とは同じものを習いたくないという気持ちがあったので、長唄三味線を習ってみようと思い、二宮にある長唄三味線の教室に申し込みました。」

 

初めて三味線を弾いた時

宮代さん「まず、ちゃんと構えられなかったですね。そして、こうも師匠と音が違うのだろうかということに驚きました。胴に糸を張った原始的な作りで、機械的に音を操作しているわけではないのに。私はエレクトーンを習っていましたし、ロックやブルースなど機械的、電子的な音に慣れていたせいもあったかもしれませんが、奏者によるギャップの激しさに奥の深さというか不思議さを感じました。

本格的に長唄三味線を続けるかどうかも決めかねている状態だったのですが、ありがたいことに師匠が1年間三味線を貸してくださって、家でも練習できたことも良かったですね。今では自分の三味線を購入してしまいました。いつか満足のいく音を出したいという意欲が、今でも続いている大きな要因のように思います。難しいですけど。」

 

 

湘南ながうたの会の発足

宮代さん「二宮の師匠の教室に通っていた生徒さんの中から湘南地域の仲間でできたのが『湘南ながうたの会』です。きっかけは、東京千代田区の“江戸長唄ごひいき衆”という団体があってそのイベントに応援に行ったり、演奏に参加していた事です。長唄は基本大合奏なんです。そしてオーケストラのように指揮者が前にいるわけではありません。タテ三味線というリーダーの先導で全員が息を合わせて演奏します。そこには良い意味で場の空気や隣の人を気遣うコミュニケーションが重要になります。」

確かに、“江戸長唄ごひき衆”のホームページのコンセプトに表現されています。

街いっぱいの長唄・江戸長唄ごひいき衆のホームページ  http://nagautafull.com/

長唄でつくるコミュニティー

日本の伝統音楽である長唄は、少ないときは2人、多いときは数百人で合奏する音楽です。指揮者のいない長唄は演奏する者同士の日頃のコミュニケーションがとても大切。息が合う。息を合わせる、他の奏者のことも考えて演奏することは、まさに日常生活に重要なコミュニケーションを体現しているのです。

日本の伝統文化、江戸情緒を知るとともに、世代、地域を広く取り込むコミュニケーション・ツールとして活用して人と人とのつながり作り・街づくりのきっかけを作ります。

街いっぱいの長唄・江戸長唄ごひいき衆のコンセプトより一部引用

 

宮代さん「そして、皆で演奏していい音が出せて演奏できたときの達成感は、絆を深めます。そこで人を思いやる気持ちなどを、長唄をツールにして育んで繋がっていけたらと思い活動しています。

湘南ながうたの会の演奏や活動を観て、長唄を知っていただくきっかけとなって、一人でも多くの人に興味を持ってもらえればうれしいです。また、一緒にお稽古をしたり、地元のイベントなどで演奏して楽しい時間を共有できる仲間が増えることを願っています。月に1~2回行っている定例お稽古はいつでも見学できますので気軽に見に来ていただきたいです。」

湘南ながうたの会  https://www.facebook.com/shounannagauta/

 

今後の夢

宮代さん「いろいろな地域、場所で少人数で良いので、長唄のサークルができたらいいなと思います。

そしてそのサークルが集まって大合奏ができたら最高ですね。」

 

ライターの独り言

「俺、野球やるんだけど、あなたの趣味は何?」と聞いて「俺はサッカーだね。今度一緒にやろうよ」といっても同じスポ―ツでもできないけど、「俺、ギターが趣味なんだけど」「いいね、私はバイオリンを少しできる」「それじゃ、今度セッションしてみない」と楽器は仲間を増やす最強のアイテムだと思う。以前から、楽器ができる人に憧れる。

 

ライター:清水浩三

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