「2021年から2022年を文字で表現してください」とお願いしたら、「再生」という文字を書いてくれました。

堤 千恵子さんの直筆

 

そのこころは

堤さん:コロナをマイナスイメージではなく、例えば、働き方でいえば、何で今まで時間をかけて通勤していたのか?とか。家で仕事をすることによって家族の在り方だとか。新たに気が付いたことが沢山あったのではないかと思うんですね。今後はコロナ渦での経験を活かして生まれ変わるという意味をこめました。

                             堤 千恵子さん

 

今回は書家の堤 千恵子さんです。

堤さんは小田原市を中心に活動されていますが、平塚江南高校の書道の講師で、平塚と関係深い方です。そこで堤さんの活動の経緯から、また原動力は何かを伺います。

 

2021年11月末に行われた小田原市民交流センター祭り(UMECOまつり)の実行委員長を務めましたが、やってみての感想は?

堤さん:準備期間がコロナの感染渦中で、みなさんから「やるんですか?」「やれますか?」という心配な声がでました。でも「辞めるのはいつでもできるので、まだ判断はしません。」「絶対やります」と粘りました。

決断は難しかったですね。

コロナ感染渦中では、「人との接触はやめなさい」「密にならないで」といわれますけど、コロナ渦だからこそ市民活動は必要だと思うんです。行政が届かない隙間を埋めるきめ細かいサポートがより必要な時に活動が止まってしまうのは疑問に思ったんです。だからこそUMECO祭りはやりたかったんです。

 

堤さんのプロフイール

昭和41年うまれ。二宮町生まれ。 現在は小田原市在住。

国語と書道の教員免許を取得。幾つかの高校で書道講師として勤務。

書家として、日展などにチャレンジする活動をしながら、「書道指導者育成協会」を立ち上げ、指導者の育成と書道普及活動をしています。

 

子どもの頃の堤さんは?

堤さん:幼少のころから絵を描いたり、ピアノを習ったり、書道を好きな女の子でした。

気の合う人には良く語り、ついて来ようとついて来なかろうとリーダーシップをとりたがる少女でした。人見知りもあったようですが、人前では大丈夫でした。

 

書家を目指したきっかけ

堤さん:書道は学校の授業で習ったのが最初です。自分が感じていることを何かの形にして表現することが好きでした。書道なら一生続けていけるのではないかと思ったのは20歳くらいの時です。書道は自分が辞めようとしない限り続けられるものだから。自分がプロだと自覚したのは40過ぎてからです。

 

書道の魅力

堤さん:書道は絵画的なところもあるし、音楽的なところもある。文字を書いている時には、強く書いているところもあれば優しく書いているところもあるし、リズミカルに筆を動かすことは大切です。歌もとぎれとぎれでは聴きにくいでしょ。書道は黒と白の残るのが不思議な世界です。描いている人の感情はどうだったのかなども想像するのも楽しいです。色々な芸術も感じるか、感じないかでいいと思うんですよ。究極、好きか嫌いかでいいと思うんですよ。感じることが大事で、そういう面白さで書道を続けているし、伝えたいと思います。

 

書の道とは

堤さん:書道は字を書くだけじゃなくて、道具の準備から片付けまでが書道なんだよ、と伝えています。

例えば、紙を綺麗に4つ折りにするとか、お片付けの時に下に敷いた新聞紙を綺麗にたためば重ばらないなど、書道を教えながら、それ以外のことも身につけてほしいと思って指導しています。

「字を綺麗に書くには、周りを汚さない気配りがないと字も綺麗にならないし、線を真っすぐ引きたかったら周りの道具が整理されてないといけないんだよ」と教えています。

手書き、筆や鉛筆の持ち方、姿勢、正しい書き順など絶滅してしまうんじゃないかという危機感をもっていますので、小学生に伝えていくのが私の仕事です。

書道指導者育成協会の書初め指導の様子

 

「書道指導者育成協会」を立ち上げ  

堤さん:高校で教えていますが、小学生も中学生も書道を知って貰い続けてくれないと、大人になっても続けてくれる人が減少してしまうのではないかと思い、それをするために一人ではなく沢山の人とスクールボランティアとしてやっていけたらいいなと考え、8年前に「書道指導者育成協会」を立ち上げました。

書道の指導方法を研究して、学校に教えにいったり、サークルで指導したり、書道の技術を活かしていける書道の普及活動を大きな目的として、普及してくれる指導者を育てる会です。

書道は書を上手く書きましょうという個人の技術向上ですが、「例えば御朱印を書く、賞状を書く」などの仕事をしながら書道を広めていこうというのも狙いです。

「書道指導者協育成会」は書を通して世の中と繋がっていけるようにしたいのです。

自分が身につけたものを学校教育の場で手助けをしていこう。書道を仕事に結び付けて収入を得るというサークルを広げていきたい。自分が死んでも残せるものは私の教えだと思っています。

自分が知っていることを、次の世代に伝えて教えていくことが、私が生きていた証だという意識はあります。「大人になって自立した人になるために何が必要か」ということを、書道を通して子供達に伝え教えていきたいと考えています。

 

書道の活動で嬉しかったこと

堤さん:教えたときは小学生だった生徒が、大人になって私の活動を一緒にやってくれているのに成長を感じて嬉しいですね。また、小学生低学年だったやんちゃな子たちが、高学年になって、道具の整え方もしっかりできるように成長した姿をみると感激しますね。

 

辛かったこと

堤さん:40歳近くなるまで自分が書道家として確信が持てませんでした。自分が何者かがわからない、自分を肩書で、書家を生業としていると言えない長い期間は悔しさもあり辛かったですね。40歳になったころに、「日展に入選したことで自信がもて「私は書道家です」と言えるようになりました。

 

生涯学習から市民活動へ 

堤さん:生涯学習というとみなさんは趣味の活動だと思われがちですが、本当にそうなのか?と思っていて、他の市ではどんな考え方をしているのか知りたい。市民活動というと問題解決というイメージをもっていて、今回UMECO祭りの実行委員長をして参加団体が市民活動をしている団体もあれば生涯学習系の団体もあり、今後の方向性としてどうすればいいのかなと他の地域ではどうしているのかなと思っています。

高齢者にも書道を教えていますが、20数年たってくると書道の上達だけでなく高齢者のサロンになっていることに。「私のやっていることはそんな役目も果たしているんだ」と感じました。辞めていった方にも、「お手本をみるだけでもいいから顔を見せてください」という声掛けも出来るようになりました。

堤 千恵子さんの2022年正月の“書華パフォーマンス展示”

               小田原フレスポシティモールにて

 

 

ライターの独り言

堤さんのインタビューを終えて、私も一字で堤さんを表現したらと考えてみました。

私が選ぶのは「明」です。インタビューでも「よく語る」と言われてましたが、そのとおり沢山お話しくださいました。そのキャラクターの明るさも感じますが、自分の方向性が明確なこと、レスポンスが明瞭なところなどを感じました。益々の活躍を祈念しています。ありがとうございました。

 

 

取材日:令和3年12月7日  清水記

 

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