子どもの頃、デパートに行くのが夢のようでした。田舎に育った私は、都会のような大きなデパートはなかったものの、屋上には小さな遊園地があるデパートは楽しかった。何より、食堂でごちそうが食べられるのは何よりでした。
昭和から平成へと変わり、また新たな元号(令和)になろうとしている現在、変化してきたものは沢山あると思いますが、デパートとか百貨店は昭和の感じがしますね。平成になって急激に減少したような気がします。
デパート、百貨店から、ショッピングセンター、モールへと変化
平成になって、ショッピングセンター(以下SCと呼ぶ)やショッピングモールなどと呼ばれる複合型商業施設があちこちにできました。平塚でも“ららぽーと湘南平塚”が2016年にオープンしました。
デパートや百貨店では、食品と洋服が大部分を占めているようですが、SCでは他にもいろいろなお店が入っています。ゲームセンター、スポーツジムなど。商店街が、一つの建物に入った感じですね。
施設の変化とともに、販売手法も変化してきているようです。
私の感覚では、お店の店員さん(以下スタッフと呼ぶ)は「お客が選んだ品物の会計をしてくれる人」というイメージでした。でも今回、取材させていただいた「ららぽーと湘南平塚」の中の“ニコアンド”のスタッフの野尻 真由さんにお話を聴いてイメージが一変しました。
ライフスタイルにあった商品を提案する。
お客様がお店に並んである商品を自分で選ぶこともあるでしょうが、現在は、お客様がお店のスタッフとお話ししながらお客様のライフスタイルに適した商品をスタッフに提案してもらい最適なものを選んで購入するという形に変わっているようです。
よって、スタッフには、お客様とのコミュニケーションを取り、お客様のニーズを読み取り豊富な商品知識から最適なものを提案するという能力が要求されます。
全国のSCなどでは、スタッフの接客能力の向上をはかるため研修などに注力しています。
また、接客技術を競うコンテストも行われています。
今回、取材させていただいた、ららぽーと湘南平塚のニコアンドにお勤めの野尻真由さんは、一般社団法人日本ショッピングセンター協会主催の“接客ロールプレイングコンテスト”で関東・甲信越大会で優勝。全国大会に出場されました。
コンテストの様子、接客の心構えなどをお聴きしました。
野尻さんは、株式会社アダストリアに入社して3年目です。
ニコアンド(niko and …)というブランドの部署に配属され、ららぽーと湘南平塚のお店に勤務されています。(3月より、ららぽーと海老名のニコアンドに異動されました。)
ニコアンド(niko and …) 人は生まれてきたままでは何か足りない。niko and …は、人や暮らしに【スタイル】を加えることで[自分らしさ]を創造する幸せを提供します。
野尻 真由さん
「接客ロールプレイングコンテスト」ってどのようなコンテストなのか興味がありますね。お聴きしましょう。
全国大会への道
野尻さん 「まず、ららぽーと湘南平塚での大会があり、優勝者は、ららぽーとの全国大会へ出場になりました。私は、準優勝でしたので、SCの関東・甲信越大会へ出場しました。そこで物販部門で優勝して全国大会への出場となりました。」
コンテスト内容
時間/支部大会までは、6分。全国大会は8分。
野尻さん 「6分、8分と聞くと、長いと思ったのですが、実際の接客ではもっと時間がかかっているので、とても短かったですね。その中で、お客様と会話しながら商品を提案するのは難しかったです。」
商品点数/支部大会までは、5点。全国大会は10点。品物は出場者の自由
ロールプレイの相手役/俳優、女優さんが務める
ええ~、俳優さんが相手役ですか? どんな感じでしょう。
野尻さん「コンテストでは必ず商品はお買い上げになるという前提ですが、私の時に誰が当たるかも決まっていませんし、どの商品をお買い上げになるかも決まっていないという、ぶっつけ本番です。でも、とてもきめ細かく設定を考えてき下さいました。」
コンテストに向けて練習されましたか?
野尻さん「いっぱいしました。会社も研修など接客には力を入れていますので、他のお店の店長が協力してくれて指導してくださいました。最初は“コンテストのための練習”という意識でしたが重ねていくたびにコミュニケーションしていく言葉が豊富になり、お客様の良さを褒める引き出しも増えてきて実際のお店での接客に大変勉強になりました。」
ニコアンドの店長にも何か言われましたか?
野尻さん「コンテストの大変さをよく知っているので、逆につらい時にやさしく声をかけてくれて、「大丈夫? 頑張りすぎないでね」と癒していただきました。ありがたかったです。店長は接客もとてもお上手で、店長目当てに他店からお越しになる方もおられるくらいなので、見習いたいと思っています。」
全国大会へとレベルが上がっていく中で、他の出場者と違うものを出さないといけないと思うのですが?
野尻さん「そうですね。選ばれて残った人達は接客がお上手というのが前提ですから、そこから、頭一つ抜け出すには個性、ユニークさを出さないと目立つというか、アピールしませんよね。」
では、ズバリ野尻さんの個性、売りはなんでしょう?
野尻さん「私の売りは、ユーモアです。」
え~。ユーモアですか? 力強く言い切ってくださった答えに驚きました。
野尻さん「昔の私からは考えられないことですが、仕事をしてきて変われるものなんだと実感しています。」
コンンテストの模様の動画はYoutubeに沢山あがっていますのでご覧ください。
コンテストの写真 右が野尻さん
そんな野尻さんもいきなり接客のプロになったわけではないはず。そのルーツはどこからくるのでしょうか。
野尻さん「小さい頃は人見知りで、1人で絵をかいているのが好きなほうでした。話かけるのも怖いし、話しかけられるのも怖かったです。学生時代に友人関係が広がったのもありますし、ニコアンドでバイトしてお客様と接する機会もあって、『お話をするのって楽しいな』と思って『自分は人と対面する仕事に向いている』と感じました。就活していても販売関係しか受からなかったのも、運命のようなものを感じます。」
実際にお客様と対面してみていかがでしたか?
野尻さん「来てくださるお客様は、幅広い方がおられて、ニコアンドを目指してきてくれた方、フラッと寄ってくれた方、それぞれバックグラウンドがあってそれを接客での会話の中で聴くことは、とてもためになることです。また、自分の提案した商品がお客様の一歩踏み出す力になる仕事は、そんなにあるものではないと思っています。やりがいがあります。何気ない『ありがとう』という言葉をいただくのも嬉しいですね。」
お仕事をしていて嬉しかったこと
野尻さん「私と話をしにくることを目的として御来店くださるお客さんができたことです。また、私に『お洋服を提案してほしい』といって、私の時間が空くのを待っていてくれるお客さんもいたのは嬉しかったです。」
意地悪な質問をします。いやなお客様もいますよね。
野尻さん「確かにご指摘くださる方もいらっしゃいますが、絶対に理由があると思っていてそれは、スタッフの対応もしかり、商品のことでもあるし、理由を聞くことによってお店の今後のことにつながるので、貴重なご意見だと思うようにしています。」
お客様の中には、スタッフが近づいてくるのを嫌う人もいますよね。「自由に観させてくれよ」みたいな
野尻さん「お1人で観たいお客様もいらっしゃいます。そういうお客様でも、ほったらかしにするのではなく、『スタッフが近くにいますよ、何かあったらどうぞ』という距離感で、時々アイコンタクトで存在を感じられるようにしています。それもアパレルスタッフの仕事の一つだと考えています。」
接客で心がけていることは?
野尻さん「お客様といる空間を自分も楽しむこと。だと自分なりに思っています。お客様が一生懸命お話ししてくれているのに自分がつまらなそうだったら、お客様も話す気にならないだろうし、逆にこちらが楽しそうだと思いがけない話までしてくれることもあるので、『自分も楽しむ』ことを心がけています。そのためにも沢山話すことですね。」
平塚という街の印象は?
野尻さん「私は埼玉が実家で引っ越してきましたが、平塚を知らなくて友人に聴いたりしましたが、『怖い街』という印象をもっていました。でも商店街もにぎやかだし、平塚八幡宮など静かなところもあるし、道も広いし、お店に来るお客様もあったかい感じがします。いろいろな顔をもっていて住みやすい街です。」
今後の夢
野尻さん「もちろん、経験と努力を積んでニコアンドのお店の店長になれるように頑張ります。そして、本社に異動してニコアンドをもっと沢山の人に知って貰えるようにしたいですね。」
テレビで、ニコアンドのCMが流れています。注目してください。
ライターの独り言
“接客ロールプレイングコンテスト”はSCだけでなく、平塚ではラスカでも行われていますしルミネやイオンなどでも行われています。何故、接客の技術向上を競わせているのか考えてみました。
どこも、同じ敷地内や建物の中にいろいろなお店が入っていますが、例えば“ニコアンド”もららぽーと湘南平塚のニコアンドなんですね。だから、ニコアンドの接客で悪い印象を与えてしまえば、ららぽーと全体の接客の悪さに繋がってしまうんですね。SCは一つのチーム。緊張感ありますね。
野尻さん、ありがとうございました。
ライター:清水 浩三