「話がいろいろ飛びますからね、わからなくなったら、ハーイ!って手を挙げて止めてくださいね!」「話の途中でも遠慮なく水分をとってね!」大磯駅前にある定員20名ほどの「湘南ギャラリーえん」(中郡大磯町大磯1009)。この日は、武井久江さん(69)のトークショーだ。大磯にアトリエ兼自宅を構えていた女流画家、三岸節子の生涯とファミリーヒストリーを語るというもの。三岸節子が、戦前は男性が優遇されやすいと言われた画壇の中でファイトを燃やした先輩画家である岸田劉生の麗子像の画風を参考にした話は、早世した夫、三岸好太郎から聞き得たもので、モデルの目をわざと大きくして真似ではないことをアピールしたエピソードなど。武井さんは、お客さんが退屈しない話題を、トークの随所にちりばめていた。

武井さんの軽妙で、テンポの良い語り口は、10年近くに渡って、大磯を紹介するガイドツアーのボランティア経験を積んだことで鍛えられた。自分なりの視点で大磯にゆかりのある人物を紹介し、お客さんに喜んでもらいたいという決意の下、2017年に、それまで在籍した団体を辞め、「大磯語り部の会 あこ」を立ち上げた。これまでの2年で、毎月1回のペース、24回のトークショーを重ねてきた。

武井さんには、トークショーで取り上げる人物について調べるときに、いつも心掛けていることがある。「自分が会うことができない歴史上の人物であっても、あたかも実際に話したことがあるかのように人物像を浮き彫りにするまで調べ上げる」ことだ。そのためには、インターネットや図書館で借りた本だけでは全然足りない。今回は、三岸節子の生まれ故郷の愛知県にある美術館、それに東京都内の拠点であった中野区などに聞き取り調査に出かけた。三岸の長女にも会い、今までは知られていなかった三岸の母親、妻としての一面を紹介してもらったともいう。もちろん、史実を曲げることは許されないので、取り上げる人物の家族の証言、本人の作品や手紙・日記の分析もして、話の裏付けを取っている。武井さんは、「単に、自己流の面白おかしい話をしても、それでは語り部の会にはならないし、お客さんや大磯の町に申し訳ない」と真剣な表情だ。

武井さんは、大磯町観光協会の副会長として、また、澤田美喜記念館(大磯町内)のスタッフとしても働いている。また、語り部の会の実績を買われて、各地の講演会やセミナーの講師もこなしている。精力的な活動に、武井さんは「体への負担は全く感じない。これからも、自分に頼まれたことを一つ一つこなしていきたい」という。

 

ライター:高橋貴之

※この記事は当法人が開催した「WEBライター養成講座」(全3回/5月29日・6月12日・6月19日)の受講生が、受講中に取材して記事にしたものです。