NPO法人「しえんのまなび舎(や)」の高梨 聡美 代表にお話しを伺いました。

「しえんのまなび舎」代表の高梨さん

高梨さんのプロフイール

・平塚生まれ、平塚育ち

・教師を目指して大学に進学

高梨さん:「当時は教員になるのは難しい時代だった。丁度、養護学校に力を入れ始めた頃で本来は1学年下の学生しか学べなかったが、大学に談判して学ばせてもらったことがある。これがその後の教員生活の大きな財産となる。」

・大学卒業後、36年間の教職(20年間は通常学級、16年間は特別支援級を担当)

・教員時代に平塚ベンチャークラブの代表を務める

・2017年10月「しえんのまなび舎」を設立

・2019年に教員を退職

・2019年11月「しえんのまなび舎」のNPO法人格を取得。代表を務めている

 

高梨さんはどんな先生でしたか?

ハンターとウエイターがあるんだそうです。子供の成長をじっと見守るタイプがウエイター。ハンターは子どもを成長させるために仕掛けるタイプ。私は、ハンターです。仕掛けましたね。

 

教員時代に印象深いエピソードをお話しください。

阪神淡路大震災の時の、募金活動とオペレッタ

阪神淡路大震災(2007年)が発生した時のことです。担任していた5年生のクラスの子たちが

生徒たち:「僕たちで何かやろうよ」と言い出しました。

先生:「何ができるのかな?」と問いかけると

生徒たち:「募金集めよう」

と言い出したんです。そして次の日には近くの農協の前で募金活動を始めちゃったんです。驚いて

先生:「勝手にやれないんだよ。許可を貰わないといけないんだよ」

と言ったら、生徒達が自分たちで農協の人と交渉して許可をとって募金活動したんです。その後も

先生:「お金も大事だけど他にないかな?」と言うと

生徒たち:「余っている文房具なんかを集めて贈ろうよ」なんて言ったんです。

先生:「クラスや、5年生だけで、どのくらい集まるんだろうね?」と投げかけると

生徒たち:「学校全部に声をかけようよ」ということになって

生徒たちが校内放送やポスターを作って呼びかけたりしたんです。おかげで沢山集まって募金と一緒に贈りました。

生徒たちが農協や交番のおまわりさんなどと交渉できたのは、当時の子どもたちは地域のコミュニティに育てられていたからだと思います。今の子どもたちでは難しいかもしれません。

 

更にもう少し経って、PTA主催の震災チャリティバザーのことです。

先生:「何をやろうか?隣のクラスはゲームでチケットを売り出すらしいよ。君たちは何をやりたい?」

生徒たち:「劇をやりたい。それでお金を集めたい」と言い出したんです。

この時もビックリしたんですが、私も大学時代にオペレッタを経験していたので

先生:「オペレッタなんてどう?」と私から提案してやることになったんです。

同僚の先生の中に演劇の経験者がいたので、巻き込んで練習したらいいものに仕上がっていきました。

先生:「チケットをどうしようか? “お代は観てのお帰り(投げ銭)”て方法もあるよ」と提案しました。

“投げ銭”になったんですが、あまりお金が集まらないといけないと思って、保護者のかたに根回しをしました。ところが本番開けてみたら予想以上の反響があって嬉しい驚きでした。

それ以来、子どもたちが自信をもったようで、楽器を使ったミニ音楽会なんかも自分たちで考えて実行するようになりました。

 

思い出話をする高梨さんの表情がとても嬉しそうで、高梨さんと生徒との絆が感じられました。

「しえんのまなび舎」設立のきっかけ

教職を退く時期に差し掛かったころに、保護者の方たちから

「今まで課題のある子どもたち、子どもだけでなく若い先生方との繋がりが切れてしまうのは惜しい。これからも相談相手になってほしい。」

と頼られまして、それまで一緒に活動していた保護者の方と、課題のある子たちのお母さん、若い先生、支援してくれる方などの悩みなどを話し合える小さな懇談会や、勉強会をやれたらいいなと思って始めました。

現在メンバーは40名。退職された教員の方もいます。その方たちの今までの経験は貴重です。

 

「しえんのまなび舎」の理念

様々な課題をもつ子どもたちを取り巻く保護者・教員等が1人1人の子どもがありのままの自分を大切にして生きることが出来るように、ともに語り合い学び、より良い支援の在り方を考える。

「しえんのまなび舎」ホームページより

 

子どもの支援ではなく、保護者・先生・支援者に寄り添う活動をする

NPO設立のために、手続きの書類を作成して担当者にみせたところ、担当者から

「子どもむけの活動ではないのですね?」と質問されました。

そうなんです。課題のある子どもに行き着くのですが、その前に先生、支援者が自信をもって当事者と向き合えるようにする。究極は親御さんの自尊感情を醸成させることが結果子どもたちに良い影響を及ぼすと考えています。

 

語り合いでの意見・要望を尊重し、セミナーなどのイベントを開催してより学ぶ活動をする

柱は、「子育て懇談会」です。「ペガサス平塚」が場所を提供してくれて、月1回開催を続けています。

そこで課題のある子どもの保護者、先生、支援されている方などが集まり、現状の様子を話し合う中で「こんな話を聴きたい」「その話をもっと深く知りたい」という意見がでてくると、セミナーなどを開催する企画へつなげていきます。

※「ペガサス平塚」とは 就労移行支援支援事業所 一般社団法人 ペガサス平塚センター

子育て懇談会 毎月第3土曜日 14:00~16:00  場所/ペガサス平塚センター

 

セミナーを聴講させていただきまして、参加者から非常に具体的で実態にあった質疑がされているという印象があるのですが?

そうなんです。大きなフオーラムに参加しても周りが専門の方ばかりで圧倒されてしまい、懇談会で「質問したくてもできなかった」なんて報告してくれるんです。ならばもっと気軽に話し合えるセミナーをやろう。というように、押し付ける企画ではなく、今当事者が知りたい、学びたいことを内容にしたイベントにするようにしています。

「しえんのまなび舎」の存在

課題のある子たちの保護者のコミュニティはあります。先生も支援者のコミュニティもそれぞれあります。でもその方たち一緒のコミュニティはないので、「しえんのまなび舎」がそういう存在だと思っています。

 

約40年の教員生活を振り返って、初期のころと現在の変化について

今の先生は若いです。だから、より子供達に近い感覚で接することができるのがとても良いと感じています。

教師というと保護者から一目おかれていた存在。まだ大学卒の人口が少なかった時代でしたが、今は保護者の方も大学卒で教師は特別な存在ではなくなってきています。

「先生が言っているんだからそうだよね」みたいなことは希薄になってきたと思います。

おじいちゃん、おばあちゃんがいてまたご近所さんなど子どもが地域に溶け込んでいて育てられていく環境であったが、地域コミュニティがなくなり、すべてが学校、教師にかかってきてしまったように感じる。社会がまだ大らかなときだったんでしょうね。

 

「しえんのまなび舎」で今後やりたいこと

1.お母さん方の自尊感情をあげられるようなことをしたい

懇談会での相談などをもとにしたボトムアップが柱ですが、私の知り合いなどの方を招いてお話をしてもらう機会を設けて、お母さんを中心に先生、支援者の自尊感情を向上につながることをやってみたいと思います。

2.課題のある人たちをもっと早い時期から、就労意欲を学んで自尊感情を高めてあげる

コラボしている「ペガサス平塚センター」に通ってくる方たちは18歳以上ですが、それ以前から自尊感情がさがっています。もっと早い時期から就労を意識し、自立への意欲などを高める支援をしていきたいと思います。

 

取材を終えて

高梨さんを取材したのは、実は昨年末のこと。その数か月後に新型コロナウイルス感染で世の中が大変なことになった。連日の報道を観たり、聴いたりする中で頻繁に流れたキーワードに「医療崩壊」という言葉。その言葉を聴いて「しえんのまなび舎」の取材を思い出した。

ウイルス感染渦中では、感染した患者を何とかしようと支援が集中しがちだが、患者をケアするのは誰?

医療従事者だよね。そこを強くしないと結果患者には良い影響を与えない。この図式がはっきり認識できた。

「しえんのまなび舎」の活動が、課題のある子たちの保護者、先生、支援者に寄り添い、自尊感情を高めてあげること。それが結果的に課題のある子どもたちに良い影響を与えるという理念に共感した。

「しえんのまなび舎」の益々の活躍を祈念します。ありがとうございました。

 

清水浩三