父の最後の言葉に、仕事をする覚悟を教えられる

竹本さん
私の父は、印章(ハンコ)作りの職人でした。父からは「手に職をつけなさい」とよく言われていました。それで司会業の仕事を身に着けて事務所を設立しましたが、3年前に父が亡くなる直前に、枕元で父が私に「これから、何が起こるかわからないけど、有希は大丈夫。自分の好きなことをやりなさい」と言われました。
私は、「何が起こるの?」と聞き返したら、父は「それはわからない」と言ってその2時間後に息を引き取りました。

実は、私は次の日に2件の結婚式の仕事が入っていました。父が亡くなった何時間後には「おめでとうございます」と言わなければならなかったのです。とても複雑な心境でしたが「これが、父が私に与えてくれた試練だ」と思い、やり遂げました。この経験で強くなれた気がします。
父の仕事場で、彫りかけの印章を見たときは、父の仕事に対する想いが伝わってきましたね。

こんなエピソードを語ってくれたのが、今回、取材させていただいた、フリーアナウンサー兼イベントプランナーの竹本さんです。

竹本さんは、タウンニュースなどの記事で発表されている、「ダブル成人式」の発起人です。「ダブル成人式」のことについては、後述しますが、とにかく、竹本さんは色々な仕事や活動をしています。司会・イベントプランニング事務所の経営、太鼓保存会の世話人、ナパサのパーソナリティーなどなど。そんな竹本さんの行動力のきっかけはどこからきているのかを掘り下げて聞き出したいと思います。

 

相州平塚七夕太鼓保存会

竹本さん
現在、保存会の世話人をしています。「相州平塚七夕太鼓保存会」は1979年に平塚青年会議所の「平塚に新しい文化を創ろう」と会議所の20周年を記念して始まった事業です。その後は松延小学校の子供会が中心となって活動の幅を広げました。作曲家の故中村八大さんに曲を創っていただきました。初期には今は亡き、坂本九さん、永六輔さんも加わり、永さんの“六”、七夕の“七”、中村八大さんの“八”、坂本九さんの“九”で「六・七・八・九コンサート」で海外公演も行われました。
平塚の七夕期間中は、広場で毎年演奏を披露しています。
保存会は先生がいなくて、年齢に関係なく全員で練習します。誰でも叩ける。伝統的なものではなく、型にはまらず自由で和音を大切にする、歴代の先輩の教えです。
来年は、40周年を迎えるので、メンバーも募集して更なる発展をしていこうと思います。

太鼓を始めたきっかけと喜び

竹本さん
兄がすでに会に入っていたので入ったのですが、練習の合間にみんなが遊んでくれるのが楽しくて続けられました。
また、私は、生まれつき右耳が聞こえないというハンディがあり、音の世界にコンプレックスがあったのですが、太鼓は全身で感じられるところが良かったです。
そして、海外公演があったのも魅力でした。義務教育を修了するまでは連れていけないと言われて、いつかは行きたいと思い、お金も貯めましたし、太鼓も続けられました。
16歳の時に行った、サンフランシスコのジャパンフエスティバルのステージは忘れられない思い出です。観客が総立ちで拍手を送ってくれて、この感動が、その後海外留学に行きたいと思ったきっかけになりました。

 

平塚をウエディングの街に

竹本さん
Hearty Time」という司会・イベントプランニング事務所を設立して、ブライダルの企画や司会を中心に、コミュニケーションのコーチング、ワークショップなどのサービスを提供しています。
ブライダル業界も、結婚離れ、結婚式を挙げない人が増えているのと、ブライダルの司会を20年してきて思うのは、「新郎・新婦が思うような式になっていないな」ということです。式場などで型にはまった式ではなく、もっと多様な、自分たちのスタイルで、かつ、低コスト・低予算で、身近で式を挙げられるようなプランを提供できないかと考えたときに、平塚では「湘南平」が良いと思いました。身近ですぐに行ける場所なので、結婚式を挙げた後も、5年、10年たって、新たに誕生した家族と一緒に訪れて、「パパとママはここで結婚式をあけたんだよ」と教えてあげるのも良いでしょうし、2人で思い出してみるのにも良いと思いました。そこで3年前に「湘南平フォトウエディングプロジェクト」を立ち上げて実現に向けて動き出しました。

 

スムーズに進まない行政の壁

竹本さん

先ず、平塚市に話を持っていきましたが、「前例がない」ということで相談に対応していただけませんでした。
その後も何とか道はないものかといろいろな方に相談をして「レストランとコラボして、湘南平でウエディング撮影をし、レストランで結婚披露パーティとして食事をする」ということだったら良いのではと提案をしました。それでも一筋縄にはいかず奮闘の日々が続きました。
行政に話を持ち掛けるのが初めてだった私としては、理解するのに時間がかかることも沢山あり「本当に市民のことを想った発言なのか?」と心痛むこともありました。
<一例をあげます。>
竹本さん:「なぜ、ダメなんですか?」
行政:「ハイキングなどで、湘南平に登ってきた人が結婚式を挙げているのを観たらどう思われますか?」
竹本さん:「とてもハッピーな気分になると思います。」
行政:「そういう人ばかりではありません。」
市民全員が同じ気持ちにならないと、平塚市はできないのか?
また、
行政:「結婚式という名前がいけませんね」
竹本さん:「何故ですか?」
行政:「宗教的な感じが強いので」
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「何が、“手をつなぎたくなる街”なんだろう」。みなさんは、どう感じられるでしょうか?

その後、「商業観光課」「産業連携ネットワーク」ものってくれて、更に「愛の輪」を市長が推奨してくれていますので今年の秋くらいから、盛り上がってやれるかなと期待しています。
ウエディングの準備には、あて名書き、お花など地域の方々とつながりながらできたらと思います。
平塚市内、いたるところでウエディングをしている光景に遭遇するのは街が明るくなると思います。
「ウエディングの街、平塚」になればいいなと思います。

 

この他にも、ナパサのパーソナリティーなどもされています。

このような竹本さんの行動的なマインドのルーツはどこからきているのかを聴いてみました。

 

無いものなら、無いところから始めればいい

竹本さん
母の故郷の沖縄人の気質が影響しているように思います。
戦後、焼け野原の中から米軍が捨てたコーラの瓶を溶かして作った琉球ガラスのように、沖縄の歴史を知ると「何もないから、出来ない」ではなく「何もないけど、無いところから何かやってみよう」という気質があるように感じます。
平塚ももっと知ると、良いところが沢山見つかると思いますので、生まれて育った平塚で自分ができることをやっていきたいと思っています。

 

平塚の印象と、思うこと

竹本さん
平塚は「他人事」の感覚がします。「誰かがやればやるよ」という感覚です。また、もっと市民の方は、受け身ではなく自分から情報を取りに行く姿勢が必要だと感じます。
市役所に行ったことが無い市民も沢山おられることと思います。手続きなどだけでなく、市役所に訪れて平塚市で何が起きているのかをつかむことが重要だと思いますね。
平塚市には良い場所、人、モノなどが沢山あります。悪いニュースだけでなく、良いニュースを沢山発信してほしいと思います。
平塚は、相模川より東は藤沢、茅ヶ崎にまかせて、県の西側や真鶴、熱海までも取り込む施策をしたらいいのではと思いますね。「まだ、平塚は都会よ」という意識が東側にあって、西側に背を向けている感覚です。
開き直って独自のカラーを出していいと思いますね。

 

今後の抱負

自分がかかわっている人たちと楽しさを共有できたらいいなと思いますね。
楽しさを共有しましょう。というわけで、最後に「ダブル成人式」について伺いました。

S52年会 「ダブル成人式」開催のきっかけ

竹本さん
昭和53年2月に平塚で生まれ、平塚で育ち、かつ、小学校1年生から相州平塚七夕太鼓保存会に入って活動したり、ナパサでラジオの仕事もさせていただいて、ふと、考えてみると関わっている人たちが圧倒的に年齢が上の人たちばかりで、また、私たちの次の世代の人たちの活躍が目立つなと思いました。

私たちが学生のころは、まだ携帯電話も普及していなかった時代であり、卒業してそれぞれの人生に散らばると今のようにメールなどで連絡を取り合うこともなかった世代です。個人情報保護法も施行されて卒業名簿に住所などを載せられなかったこともあり手段がありませんでした。
「私と同世代の人たちはどうしているのだろう?」と思いました。
そこで、3年前にフェイスブックで、「40歳になったら、集まりませんか?」と呼びかけたら、180名の方から「いいね」がありました。
これならできるのではないかと、手ごたえを感じて、有志の人たちと今年「ダブル成人式」として開催することにしました。
ところが・・・・・・
竹本さん
4000人くらいの対象者がいると見込まれました。そこで150人は集まるだろうともくろんでいましたが、残念なことに申し込みが少なかったです。
「何故なんだろう?」と考えてみると
・関わりを必要としていない年代なのでは
家族も含めて、小さなコミュニティが出来上がっていて、今更他の人との関わりの必要を感じていないのではないだろうか。
・平塚は都会ではないんだけど、地方のような感覚でもないので“ふるさと”意識が薄い
○○県人会のように、地方の学校を卒業して都会へ就職した方たちが行っていた集まりのような感覚がないのが平塚のポジション。
・情報が浸透していない
20代から30代前半はSNSを使えるのだが、SNSを使えない、知らない人も多い。タウンニュース、湘南ジャーナル、湘南リビングなどにも開催記事を掲載してもらったが浸透しなかった。

厳しい現実に直面して、いろいろ社会勉強になっています。
でも、当日は懐かしくて、楽しい時間を過ごしました。
今回は、第1回目ということで集まった方たちから、次の動きへと機運が高まっていけばと思っています。

 

ライターの独り言

参加しなくとも、竹本さんの呼びかけで学生時代を思い出して、アルバムを引っ張り出して眺めて思い出してみたり、家族で食卓の話題になったりするきっかけになることがとても貴重なことだと思います。

率直にストレートに語ってくれたことに感謝します。話が面白くて時間があっというまに過ぎてしまいました。まだ、始めたばかりのイベントも今後どのように膨らんでいくか楽しみです。

本日はありがとうございました。

ライター:清水 浩三

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