28年目を迎える、ひらつか演劇鑑賞会を取材しました。

プロローグ プロの鑑賞者との出会い

演劇鑑賞会を取材しようと思ったときに描いていたイメージは、「芝居好きな人たちが集まって、流行の芝居を観劇して感想などを言い合い、交流を深めるグループ」というものでした。ところがとんでもありませんでした。

そこにいたのは “プロの鑑賞者たちでした、”プロの役者さんが演じる芝居を、プロの鑑賞者が観る“。

一体どういう世界なのでしょうか?会の皆さんに詳しく伺ってきました。

    写真 中央が 代表の横溝さん。右が事務局長の鈴木さん。左が役員の田中さん。

第1幕 演劇鑑賞会の理念

新劇運動からの演劇鑑賞運動の胎動   

演劇のため、未来のため、民衆のためという設立目的を掲げた築地小劇場は、日本の新劇運動を開花させ、非商業主義を旗印にした演劇創造拠点として多くの演劇人を輩出しました。

しかし、明治以来の「自我の確立」を追い求める近代的な価値観は、日本の軍国主義化の中で統制され萎縮していきます。戦意高揚の舞台作りを余儀なくされ、自由な芸術活動を制限されました。そして悲惨な戦争という歴史を刻みました。

戦後、息を吹き返した新劇運動は「二度と悲惨な歴史を繰り返さない」という思想を舞台づくりの礎にしました。その新激運動には新たな演劇創造と向き合う鑑賞者が必要でした。新劇団の全国各地での公演活動の中から、演劇鑑賞運動は胎動し、やがて誕生することになりました。

 

ひらつか演劇鑑賞会設立

演劇鑑賞運動は全国で演劇鑑賞会が設立されました。神奈川県でも相次ぎ鑑賞会が設立。しかし藤沢以西に鑑賞会がなく、より近くに会があれば参加しやすいのではと、1990年に平塚の鑑賞会作りがスタートして、1991年7月にひらつか演劇鑑賞会が設立しました。当時の会員数は560名。

 

ニーズが多様化していく中で「商業鑑賞にしない」という信念。

その時に人気の俳優さんが出演する作品などは、上演すればチケットも沢山売れて観客も沢山入るでしょう。会員の中からもそういう声もありましたし、一時期傾倒していった歴史もありました。

しかし、「観終わって心に残る感動」であり「鑑賞され続けること」こそ鑑賞運動にとって重要なのです。よって原点に戻り、舞台成果をもとに完成度を検証して、地味な作品でも総合的に魅力があれば例会レパートリーに提案していこう、それをサークル会員と共有していこう、と改めて理念の再明文化をしました。

 

第2幕 演劇鑑賞会の4つのお約束

1.会員制

単発のチケット売りでは定期的な鑑賞活動を実現するためには財政が不安定になってしまいます。そこで会員制にしています。

2.サークル制

個人で会員になるのではなく、3名以上でサークルを作り会員になります。会員の定着、拡大、仲間作りにも良いと考えました。

3.運営サークル制

役員や一部の方で鑑賞会を運営するのは困難です。会員自らが運営に参加していくのが良いと思いました。年に一回、例会の運営に携わる。新しい仲間作り、機関紙(会報)の制作、座席券作り。舞台装置の搬入・搬出。公演日の受付、会場整理などなど。出来る人がやるのではなく、出来るからやるのでもない。挑戦する。という精神です。

  2017/2/10に上演された「三婆」の会報です。挿絵も田中さんが描いたものです。

 

4.会費納入制

会費は支払うもの納めるものではなく、持ち寄って事務所に来ることがお約束です。事務所にいる会員同士と演劇鑑賞の感想などを話し合う交流の場となり、機関紙や次のチケットを郵送ではなく手渡しできます。

 

第3幕 神奈川県内の平塚を含め8団体のレパートリーの統一

神奈川県演劇鑑賞連絡協議会(神奈川演鑑連)以下神奈川ブロックの例会作り(上演演目の決定)

神奈川ブロック統一レパートリーはそれぞれの鑑賞会で、サークル懇談会を開催、提案し承認を受けます。

第4幕 トピック&演劇を楽しむ

あの大女優も

往年の大女優の杉村 春子さんは平塚での公演が最後の公演でした。

大地 喜和子さんは平塚での公演に出演予定でしたが、非業の死を遂げてしまい、代役での公演になりました。

突然のハプニング

公演日ですべて準備が整って、これからというときに出演者にインフルエンザが発生していることがわかり急遽、公演が延期になったこともあります。

 

演劇を10倍楽しむコツ

1.鑑賞するときはかぶりつき

役者さんの顔の表情が場面によって微妙に変化していくのを見ると、プロの凄さが感じられます。セリフを言っている人以外の様子をみることも芝居を深く知ることができます。テレビ画面からでは見えない、ライブならではの魅力です。

2.ちょっぴり公演の裏側を覗く

運営をサポートして、大道具、小道具の搬入などを手伝うと、芝居作りの奥深さが更に感じられて作品をより楽しめます。時には、演技の稽古をしている場所を見学すると、より近くで芝居に打ち込む姿に感動します。運営を携わることで味わえる経験です。

3.作品は一回だけでなく、場所を変えて何度も鑑賞する

地元開催でなくても、会場変更で鑑賞できます。同じ演目を神奈川各地で上演しています。会員であれば、ひらつか演劇鑑賞会との日程が合わない時、他の鑑賞会例会会場で観ることができます。ひらつか演劇鑑賞会と違う演目の場合は有料(¥2000)で観ることができます。

第5幕 平塚に想う

平塚には劇場がない

公民館はあるが劇場がない。舞台と客席があれば良いというわけではない。

1.舞台セットは大掛かりなものもある。大きなトラックに積み込んでくるが、搬入の際のプラットホームが必要。

2.役者さんが、舞台に登場するまでにリラックスしたり、また緊張を高めて精神を集中させるのに重要な空間である楽屋・控室が充実していること。

3.観客が入口から入って、座席に着くまでの距離は、これから芝居をみるというワクワクする感情を高揚したり、抑制する空間で、適度な広さが必要。エントランスはゆったりであってほしい。

4.会場に来てもらうにも、駐車場がない。公共交通機関との連携もない。

 

エピローグ 素晴らしい舞台との出会いをあなたと

「この年になると、泣いたり笑ったりする感情がなくなってしまうので、2か月に1回は芝居を観てその感情を呼び起こすのです」と言っていた90歳を超えた会員のかたがおられたそうです。

何と前向きな言葉なのでしょう。

年齢に関係なく、なかなか個人では観に行かないであろう演目の芝居にも出会い。良質な芝居に心を揺さぶられ。運営を通じていろいろな方と交流をもっていただけたら更に豊かな気持ちになるのではないでしょうか。ひらつか演劇鑑賞会では会員を募集しています。

 

カーテンコール 良いお店は、良いお客が育てる

以前に、芸者さんの置屋のおかみさんから聴いた話ですが、「芸妓は私たち置屋のおかみや、踊りや三味線のお師匠さんが育てるもんやない。贔屓のお客さん方に育ててもらうんや。」と言っていたのを思い出しました。

演劇も、眼の肥えた鑑賞者がいてこそ、「その人たちの心を動かしたろう」と劇団の人たちが努力する。それが更に良いものを鑑賞者に届ける。好循環を産みだすように思います。

まちづくりも、良い市民がいるから良いまちになる。良いお客さんがいるからお店が頑張る。頑張っている人やお店があるから、自分も自分の店も頑張る。良いまちだから人が集まる。こんなつながりになれたらいいな。

 

取材にご協力いただきありがとうございました。

湘南NPOサポートセンター 清水 浩三

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