10歳になった朗読「糸の会」

平塚の市民活動団体に朗読「糸の会」があります。

  1. 朗読の楽しさを広く地域に伝えていく。
  2. 声に出して朗読することで美しい日本語を表現し伝えていく。
  3. 朗読により平和の大切さ、命の大切さを伝えていく。

ことを目的に活動しています。朗読「糸の会」は市民アカデミーの講座を受講した有志が立ち上げた団体です。

公民館が主催した講座が起点となって市民団体が生まれ、いまでは地域で活動して平塚の元気に貢献していること。そのルーツを辿れば、これから活動しようとする人たちにヒントになることがあるのではないかと思います。平塚の市民活動団体の朗読「糸の会」を取材させていただきました。

取材には、会の設立に関わった4名の方と現在の会の代表も加わっていただき5名の方にお話を伺いました。

取材風景(左から 小山さん、永井さん、野口さん、鈴木さんと現在代表の染谷さん。)

 

市民アカデミー講座から会の設立へ

会の設立のきっかけは何だったのですか?

永井さん「2007年に中央公民館主催の「市民アカデミー講座」で「朗読のひととき」と題した講座がありました。実際に声をだして朗読を体験する講座でした。とても人気があり20名の定員に80名以上の応募がありました。

約4か月にわたり、計8回の講座でしたがとても楽しく、終了するのが物足りなくなり継続してほしいと思ったのがきっかけです。」

何でもっと継続したかったのですか?

野口さん「指導してくださる先生が魅力的で引き続き習いたかったからです。その一言に尽きます。」

先生のどんなところに惹かれたのですか?

みなさんが口をそろえて「全てです。」とおっしゃいました

野口さん「例を挙げると、私たちが朗読をしておかしいところを、先生がマネをしてくれるのです。それが実にうまくて本人が納得させられるのです。」

永井さん「私たちが適当に何も考えず読んでいるのを見透かされるのです。」

小山さん「字面(づら)にない奥にあるものを考えて読みなさい。と言われます。」

野口さん「いままであまり褒められたことはないのです。でも一度だけ褒めてもらえたのがうれしくて、もう病みつきになりました。」

永井さん「野口さんは「私は女優よ。」と言っていたのよね。」(笑)

野口さんは「言ってない」と照れていましたが、講座の様子が浮かび上がるほのぼのとした思い出話です。

そして会の設立に動き出します。

有志を集めるのにどのようなアクションをしたのですか?

永井さん「講座終了直後に中央公民館に「もっと加藤先生に習いたい」と直談判に行きました。

同じ思いの方が数人いてその人たちが中心となり有志を募ってサークルとして始めようと動きはじめました。中央公民館の社会教育課の職員の方がとても協力的で、講座の時に抽選で受講から漏れた人たちにハガキで呼びかけてくれました。また、新聞社にもお願いして宣伝してもらいました。」

その時の新聞の記事を見せていただきました。

 

この熱意と勢い(行動力)には驚きます。また、協力してくれた公民館の職員の方には敬意を表します。

おかげで20名の有志が集まり、引き続き加藤先生の指導のもと朗読を愉しむことができるようになりました。永井さんが初代代表、会計は野口さんが担当してスタートしました。

 

講師の加藤先生とは?

講座が終わっても継続してほしいと思われる、先生はどのような方なのでしょうか?

指導されている加藤 敬子(かとう ひろこ)先生です。

加藤 敬子先生のプロフィール

  元テレビ朝日アナウンサー。NPO日本朗読文化協会講師。

  HCI「語りと語りの会」主宰 HCI – – – Hiro Communication Institute

 

先生から良く言われることは何ですか?

小山さん「お腹から声を出すように。喉から出していると先生に見透かされてしまいます。」

永井さん「加藤先生の目指すのは「魅せる朗読」「語る朗読」です。きれいに読むことではなく聴いている人に感動を与える朗読です。」

小山さん「加藤先生は、発音、滑舌、正しいアクセントには厳しいですね。」

野口さん「最近、テレビのアナウンサーが話すのを聴いて、「いまのとこアクセントが違う。」とわかってしまいます。少し成長したのかなと思う瞬間です。」

鈴木さん「時々ですが、「品格を持ちなさい」といわれますね。「糸の会」の会員だという自覚をもって日頃から品格を大事にするようにということです。」

 

レッスンの風景

 

主な活動と思い出

具体的な活動について伺いました。

  • 最初の発表会

「糸の会」設立から約2年経過した2009年7月に最初の発表会を平塚美術館で開催。

開催まで時間が経過したようですが?

永井さん「レッスンは月に2回、中央公民館で行いました。私たちは加藤先生に習っていられればそれで満足でしたが、先生からも「そろそろ発表会をしたら。」という勧めもあり、会員の中からも声があがり会の設立から2年を経過した2009年に朗読会をすることにしました。」

染谷さん「発表会近くなると、レッスンもお弁当持参で長丁場になります。」

野口さん「うちのメンバーは本番に強いの。発表会の時が一番、出来が良かったと誰もがいいますね。」(笑)

この自信がそれからの毎年の発表会開催につながっていくわけですね。

 

  • 第2回目の発表会

2010年7月には、「平塚から平和を」テーマにした朗読会を美術館で開催。

ハープ奏者の八木健一ご夫妻をお招きしての演奏と朗読のコラボレーションでした。

平塚空襲の体験記、手記の朗読、朗読劇「月光の夏」を披露。

開催にあたっては、朗読の練習以外に別な苦労を味わったようです。

永井さん「その時に資金調達のためにひらつか市民活動ファンドの助成事業にチャレンジしました。手続きの書類作成で一苦労しました。普通の主婦ですから提案書を書いた経験もなく担当課の職員から「箇条書きにして簡潔にまとめてください」と言われて、加藤先生にまで添削をお願いしとても苦労しました。おかげで審査では満点をもらい助成金を得て無事に朗読会が開催できました。」

そんな苦労もあって、開催された朗読会は、立ち見を入れて200名程の観客が集まったそうです。参加者からは「感動した」とうれしい感想がよせられたようです。

八木健一さんのプロフィール

  ハーピスト(ハープ奏者)。湘南サウンドオフィス代表。奥様はシンセサイザー奏者。

 

  • 協働事業で学校を訪問して平和の運動の朗読会

2012年に協働事業として学校で「平和の集い」の朗読会を開催。

学校は、春日野中学校、松原小学校、旭小学校の3校。八木健一さんのハープとのコラボ。

小山さん「子どもたちはハープが珍しくて触りたがるのです。八木さんは優しく触らせてくれて、子どもたちはとても喜んでいました。」

野口さん「子供たちの感想文に感動しました。稚拙な字ながら、「私たちの朗読で子供たちが平和や命の大切さを感じてくれたのだ」と思い忘れられません。」

 

  • 2013年以降も毎年7月に朗読会を開催

2017年7月に開催された朗読会にて。中央の女性はゲストのカテリーナさん。

ウクライナ出身で故郷の近くのチェルノブイリ原発の様子について語ってくれました。

 

  • 現在の活動

現在は会員15名。内、黒一点、唯一の男性が1名。良い味をだしてくれています。

毎月、第4月曜日に介護付有料老人ホーム「サンガーデン湘南」で朗読ボランティアを行っています。

その他にも、小学校、公民館、図書館などで朗読ボランティアの活動を行なっています。

 

朗読の奥深さ

朗読の大変さ、楽しさは何ですか?

永井さん「自分はこう読みたいと思って読んでも、思い通りに読めない時は悩みますね。でも少しでも成長して思うとおりに読めた時はうれしいです。」

野口さん「教材を自分なりに演出して読んで、先生に褒められたときが一番うれしいです。やったって思います。」(笑)

登場人物になりきるために真剣に読み込みます。

 

今後の抱負は何ですか?

小山さん「作品の意図をくんで読めるようになりたい。」

染谷さん「私も同じで著者の思いを伝えられるようになりたいです。」

野口さん「自分で教材を演出するのが楽しく感じてきています。それが朗読に繋がればいいなと思います。」

鈴木さん「私は演劇をしてきましたが、セリフを覚えるのが苦手で、台本を見ながらする朗読は楽しくてしかたありません。どんどん積極的にやっていきたいです。」

永井さん「私たちの活動を観てほしいですね。つたない朗読ですけど朗読の楽しさや私たちの平和への想いが伝わればうれしいです。」

 

「糸の会」の名前の由来は何ですか?

市民アカデミー講座のときのテキストの作品に、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」があり、それをヒントに

「細い糸だけど撚り合わされば太くて強い糸の束になる」と会の結束の想いを表す名前です。

先生からは「糸では細くて切れそうじゃないの。」と、言われましたが、いまでは綱のように太くなっています。

取材中のお話の中に、レッスン中でも、あまりにも登場人物に感情移入して泣き出すこともあるとか。朗読の奥の深さを知りました。先生に恵まれたことのうれしさや、何よりみなさんが朗読を愉しんでいることが伝わってきました。これからも朗読で平塚を元気にしてほしいと思います。ありがとうございました。

 

ライターの独り言

会員の方々に慕われる加藤先生を取材してみたくなりました。機会がありましたらお話を伺わせていただきたいと思います。野獣ライターがお邪魔させていただきます。

取材記事:清水浩三