私は、子ども食堂のお手伝いをしていますが、2年前のクリスマスの時の子ども食堂に、大きなケーキが届きました。畳一畳もあろうかという巨大ケーキでした。

フルーツが沢山トッピングされていて、彩も鮮やかできれいでした。子どもたちと切り分けて食べました。美味しかったです。全員でも食べつくせませんでした。お土産にお家に持って帰りました。

「誰が創ってくれたの?」と訊いたら「斎藤 葵さん」だと知りました。その時は、お名前しかわからずにきっと「お菓子のお店を経営しているプロの職人さんなんだろうな」と思っていました。

昨年年末に、平塚100人カイギというイベントで、たまたま席が隣になったのが縁で名刺交換をして斎藤 葵さんだと知り「あのお菓子屋さんだ」と思ったのですが、名刺には「湘南バレエ・コンペティション事務局」となっていたんです。

「???」と思うと同時に、バレエコンクールをプロデユースすることに興味がわき取材をしました。

斎藤 葵さん

斎藤 葵さんのプロフィール

東京生まれ。4歳から鎌倉の稲村ケ崎、30歳から藤沢、6年前からは平塚市松風町に住む。多摩美術大学建築科卒業。一級建築士。(株)長谷工コーポレーション、(株)イトーキを経て現在は不動産会社勤務。

会社員の傍ら、2013年に湘南バレエ・コンペティションを立ち上げ、コンクールの開催をプロデュースしている。

ライター:建築をめざしたのにはきっかけがあるのですか?

斎藤さん:小さい頃から建築物がとにかく大好きで、7歳の頃、テレビで観た、スペインのアントニ・ガウディのサグラダ・ファミリアに心を奪われまして、絶対建築家になろうと思いました。

ライター:小年生1年生で、魅せられるとはすごいですね。

斎藤さん:変わった子供ですね(笑) 当時は図書館を探しても文献がありませんでした。

ライター:現地で実際の建物はご覧になりましたか?

斎藤さん:5年おきくらいに何度もバルセロナを訪ねています。初めて行った30数年前は、仮囲いも無く勝手に中まで入ることができました。2026年に完成予定ですが、既にミサが行われています。

サグラダ・ファミリア

バレエとの関わり

斎藤さん:七里ガ浜に、ロシアから亡命したダンサーが、昭和初期、日本で最初に開いたと伝えられる「パヴロバ・バレエスクール」がありました。私は建築オタクでしたから、昭和初期に建てられた西洋建物の窓からの風、空、光る海、稽古場独特の熱気が一体となった空間を眺めるのが好きで、よくレッスンに行く姉について行っていました。建築家を目指す原風景の一つでもあり、それがバレエとの関わりの始まりですね。ここからは日本のバレエ界の礎となるダンサーたちが巣立っています。残念ながら現在、建物は取り壊され記念碑が残るのみです。

日本のバレエ発祥の地、パヴロバ記念碑

パヴロバ記念碑について、詳しくはこちらをご覧ください

湘南バレエ・コンペティション(コンクール)のプロデユースを始めるきっかけは

斎藤さん:私は造語で【社会還元】と呼んでいるのですが、40歳という人生の折り返し点を迎えて、これからは育てて頂いた社会にお返しをしたいという気持ちが芽生えてきたのがきっかけですね。この段階では漠然としていましたが、何かの形で子供たちの成長に関わっていきたいと考えました。

斎藤さん:なぜバレエかというご質問ですが、バレエを通じて知り合った友人たちになにか子供たちのための社会活動をしたいと話をしたときに、彼女たちも少なからず同じような気持ちを持っていました。事務局代表の武藤もバレエダンサーとしてのキャリアをケガで断念した経験があり、色々想いがありました。私は病気がちで姉の勧めがあってバレエを始めたことで持病を克服し、設計の仕事を続けることができました。次世代のダンサーたちへの育成支援を通じてバレエへの恩返しも出来ると、計画をスタートしました。

湘南バレエ・コンペティションについてはこちらのホームページをご覧ください。

日本の芸術文化に対する貧しさ

斎藤さん:芸術文化に対して貧しい国だなと感じます。SNSの書き込みで、「ダンサーや役者は好きでやっているんだから支援する必要はない。」という意見が散見されますけれど、果たしてそうでしょうか? 音楽を聴かない人はいますか?例えば“キャプテン翼”のアニメを見てサッカ―を始めて活躍している選手が世界中にいますよね。落ち込んだとき映画や演劇に救われた人もたくさんいます。みんなそれぞれの道を選んで懸命に生きています。人の心を豊かにしてくれる芸術文化が軽視される社会であってはいけないと思います。

湘南バレエ・コンペティションの存在意義とコンクールを行うことの意味

斎藤さん:私たちは「ダンサーの未来に寄り添う」を理念として活動しています。若いダンサー達にとって何が必要かを最優先で考え、運営に反映しています。必ず複数のワークショップを行うこと、ケガをしない体づくりの講座、レジリエンストレーニングには大学の先生をお招きする等、学びに重点を置いた独自の企画を行っています。湘南バレエ・コンペティションをきっかけに一歩前に進み、いずれは世界で学び、ダンサーへの夢を叶え、その後は次の世代に良い教育をもたらしてくれることに期待しています。これが私たちが理想とする【社会還元】です。

小学生の為のクラシックワークショップ 講師:伊藤友季子先生

 

ライター:教室でのレッスンの間に、コンクールに参加することの重要性は感じますか?

斎藤さん:コンクールには発表会とは異なる独特の緊張感があります。その緊張感の中、1曲を1人で踊り切るというのはもの凄い集中力とエネルギーを要します。その一瞬に注ぎ込むことで飛躍的に伸びる瞬間があるんですね。実際にその後のバレエに取り組む姿勢が変わったと親御さんからのお話しを伺うことがあります。湘南では審査員の先生方が、技術的な面だけでなく、将来性や感性などにも目を配り、審査してくださっています。

コンテンポラリーワークショップ 講師:長谷川まいこ・坂田守先生

仕事のかたわら料理教室を開催

斎藤さん:祖母の代から料理教室で私が3代目です。8年ほど前から年5~6回くらい休日に自宅で行っています。友人達から「お姑さんが来るけど何を作ったらいい?」などと相談されることがあったり、友達をたくさん呼んで私がひたすら料理を作ってふるまう会をやっていたので自然な流れで。生徒さんは多くて10名程度。難しそうに見えるけど、作ってみるとそうでもないと気づいて、「家でも作りました!」と言ってくれると嬉しいですね。完成後は皆で食べながらお喋り。一番楽しいひとときです。

最後の晩餐には何を選びますか?

斎藤さん:最後の晩餐はもう決めてあるんです。釜揚げシラスのお茶漬けです。住んでいたのが稲村ケ崎で、漁師さんから直接新鮮なシラスが手に入ることもあって、小さいときから大好きでした。

こだわりはご飯とシラスが同量。お茶でなくお湯。すりおろした生姜を乗せて醤油を少したらして出来上がり。料理とは言えないかもしれませんが最高においしいです。

釜揚げシラスのお茶漬け(イメージ)

  

平塚に住んでの印象は?

斎藤さん:平塚というと七夕まつりと競輪場、駅前が飲み屋さんでガヤガヤしているというイメージしかありませんでした。6年前から松風町に住んでいますが、良い意味で「懐かしい昭和の湘南」という感じです。海が近く、松林にかこまれていて静かで穏やかなところがいいですね。

私が育った稲村ケ崎は観光地で、休日は人出がすごくていつも家に籠っていましたけど、平塚は海岸に行っても地元の方が多く、時間がゆったり流れている感じが好きです。家は海まで5分。駅まで10分。都内への通勤も時間はかかりますが始発駅ですから辛くないし。また、高齢の母が居りますので、坂がなく平坦なところも気に入っています。

平塚でもっとこうしたほうがいいのではないかと思うことは?

「公園、お貸しします。」

斎藤さん:平塚は公園が沢山ある印象です。沢山あるが故か整備が行き届かず雑草だらけなのを見ると勿体ないなと思います。勝手にアイデアを考えるのが好きなので、「公園をあなたにお貸しします」企画を思いつきました。手入れされて綺麗な花が咲いている戸建てのお宅が多い一方、荒れた公園は景観の印象を悪くしています。土、苗、肥料などは行政が費用負担して個人やグループに応募して頂いて、1年単位で市民に任せてみては?市民参加が広がれば「ガーデニング・フェスタ」を開催して公園巡りを楽しむのもいいと思います。ボランティアによって綺麗に管理されている公園もありますが、小さな公園はまだまだたくさんあります。参加することで地域への思い入れが強まり、コミュニティの活性にもつながると考えます。私も一つ小さな公園任せて頂けるなら喜んで!

「平塚は最近面白いことやっているよ。すごいアーティストが来るんだけど¥1000-で観れるんだよ」

斎藤さん:見附町の再開発でできる芸術文化ホールは、湘南バレエ・コンペティションもぜひこのホールで開催したいと、完成を楽しみにしています。

平塚には公民館がたくさんありますし、公園や広場、博物館に美術館も。これらの資源をすべて使って「湘南芸術祭」が出来たら素晴らしいなと。市全体どこででも公演が行われていて、子供は無料で自分たちの意思で選んで鑑賞できる環境ができたらいいなと思いますね。子供の頃から本物に触れるのはとても大切です。全国からアーティストも観客も集まる熱い1週間。そんな場が作れたら嬉しいですね。

今後の夢

斎藤さん:若いダンサーたちの成長過程の一瞬に背中をそっと押すような存在でありたいと願っています。走り続けていると、原点に返ってみようと思うときがあります。そんな時にフワッとパヴロバ・バレエスクールの稽古場の情景が浮かんできます。それはもう存在しなくて記憶の中だけのものになっていますが、いつかあの日本一美しいロケーションのバレエスクールを再建して、多くの素晴らしいダンサーの指導が受けられるスクールが出来たらと思います。

コロナ渦中ですが、湘南バレエ・コンペティション2020年開催を決定

斎藤さん:開催については何度も協議を重ねました。2020年3月以降は、だれもがレッスンを満足にできず、先生方はオンラインでのレッスンを模索し、コンクールも多くが中止になり、空白の時間が続きました。そのようなときだからこそ得るものもあったと思いますが、ダンサーを目指す子たちには時間がありません。毎日レッスンをして体を作り、10代の時期に進路を決めていかないといけないという厳しい面があります。コロナを理由に中止するのは簡単なことでしたが、若いダンサーたちの情熱を受け止める場を作るのは大人の役目、と「ダンサーの未来に寄り添う」理念に立ち返り、難しい選択ですが10月の開催を決断しました。勿論不安はありますが、最善の感染防止策を検討しながら準備を進めています。

多彩な能力と魅力にあふれた、斎藤 葵さんでした。本日はありがとうございました。

ライター:清水浩三